【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ39)

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第三十七夜　蜘蛛と赤い瞳ページ39

「……、」
　シャルナークは、口を開けて閉じない私に、頭を掻く。
「だから言おうか迷ったんだけど……」
「……か、覚悟していたことだったから…。大丈夫」
　私のいるあっちの世界とじゃ、まるで違う。きっと価値観も、人生観もなにもかも。あぁ、私は、所詮、よそ者なんだなあ…。彼等のように、平気で人の命に手をかける所業は、自分にはできない。

　それに分かっていたことだ。忘れてなんかない。幻影旅団…。それが、どれほど世間で恐れられているのか、かの悪名高い盗賊団だということも。

「でも、そんなものを集めてどうするの？」
「さあね。別にオレが欲しいわけじゃないし、分からないなあ。団長はただ、珍しいものが欲しいだけなんだ」
「珍しい、もの……」
　確かに、いつかの喫茶店でも、そんな話を聞いたような気がする。クロロは、そんなに珍しいものが欲しいのだろうか。
「でも、それもすぐに飽きてしまうみたいなんだよね。ほら、団長って少し飽きっぽいところあるでしょ？あの人せっかく奪っても、ひとしきり楽しんだ後手放しちゃうから」
「そうなの……」
「そうであってくれないと困るよ。捨てでもしてくれないと、うちのアジトは今まで盗んだものでいっぱいだよ」
　呆れたように呟くシャルナークに、私はそうね、と乾いた笑みを浮かべることしかできない。

「それに……クルタとは……」
「クルタ族、とどうしたの？」
「いや、やっぱり何でもない。忘れて」
　シャルナークはぎこちなく笑った。その時、丁度携帯電話の着信音が鳴った。シャルナークは、あは、ともう一度笑うとすぐにポケットから携帯電話を取り出し、電話に出る。随分古い機種だ。でも、携帯電話ってものは、こっちにも存在するんだ。

「え、今から？……別に構わないけれど、Aがまだいるんだよ。それに夜明けまでまだ時間がある。ひとりにしておけないよ」
　ひとしきり話した後、シャルナークは電話を切った。
「ごめんA。ちょっと出掛けてくる」
「なにかあったの？」
　すぐに向かわなければならないなんて。ただ事じゃないのでは。
「Aが心配する必要はないよ。オレが向かえば解決、なんてね」
　シャルナークはそう笑って私の肩に手を置く。
「そう…？」
「既にフィンクスたちがこっちへ向かってきてるみたいだから。それまでは、絶対に誰が来ても姿を現さないで」
「…分かった」
「約束だよ」
　シャルナークはニコ、と笑みを浮かべて部屋を出ていった。