【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ37)

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第三十五夜　キミの世界ページ37

「団員同士の隠し事はご法度よっ」
「そんなルールうちにあったっけ？ていうかAって団員なの？」
「っな、そこからっ……？シャルナークったら最低！」
　ごめんごめん、と彼は笑う。
「オレたちのことについて、団長からどう聞かされているのかは知らないけど……。オレたちはただ何かを盗むだけじゃないよ」
「わかっている……よ」
「本当かな。……オレたちは、人だって殺すよ」
　シャルナークは、眉ひとつ動かさず、そう言った。
「……知ってるわ」
「子供も女性も、見境なく。殺すべきだと思ったらなんの迷いもなくやれる」
「……うん」
　シャルナークは私の顔にそっと顔を近付け、じっと見る。

「団長の話によれば、Aのいる世界と、オレたちのいるココとは随分違うみたいだからさ」
「……まあ、確かに」
　シャルナークは、小さく笑って言った。

「君の世界では、足元に死体が転がっていたりするかい？」
「…、それは」
「子供の頃、腹が減って、人を殺したことはある？」
　頬杖をついて、シャルナークはそう言った。エメラルドのきれいな瞳が、そこにあった。
「昨日まで一緒に眠っていた仲間が、朝になって冷たくなっていたことは？」
　私は、彼のエメラルドから、目を反らした。

「確かに人殺しは犯罪だけど、君の世界ほど厳しく取り締まりされているわけではない。街にもよるけどここじゃ人がその辺で死んでるのなんてよくあることさ」

　……なぜこの世界に来て、言いようのない恐怖と不気味さを覚えたのか。

　この世界は、命の扱いがあまりにも軽すぎる。

「団長は、Aの世界に行ったことすらないけど、少し触れることができたみたいなんだ。君が、教えてくれたから」
「おしえ、た……？」
「うん。Aの世界のこと、沢山。それと、Aの世界の新聞や、本。ゲーム、おもちゃ。行くことすら、できなかったけれど、確かに、Aの世界に届いた気がした」
「……」

「団長は、そう言ってた」
「それって、私が忘れてしまった、記憶の、こと……？」
「ううん。オレたちにとって、本当に初めて出逢った時の話だよ。Aは、今よりもずっとずっと幼いボクたちに、いつか会いに行くから」
「……え」
「だから、あれからオレたちは、再びAが会いに来てくれるのを待ってたんだよ」

『あんたを、ずっと待っていた』

「団長が本のムシになっちゃったのは、Aのせいだね。Aの世界について興味津々だったもんなぁ……」