【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ35)

今日:17 hit、昨日:17 hit、合計:61,434 hit

第三十三夜　蜘蛛と胡蝶ページ35

クロロがヒソカを睨むと、ヒソカは面白そうに笑う。

「人らしくなるのは構わないが…。ボクは以前のキミの方が好きだ」
「あいにく、オレはお前のようなタイプは好きじゃない」
「それはウソ。本当はボクに興味があるんだろう？」
　クロロは表情を変えず、ただ首を振る。
「毛ほどの興味もないな」

　実を言うと、ある。見ていて飽きないこの男を、蜘蛛に引き入れたらどうなるか。面白そうだと思う。しかし、Aのことを考えれば答えは否、だ。

「まるで何かから、必死にボクを遠ざけているように思えるよ。今のキミは、さながら雛を守る親鳥のようだ……」

　ヒソカの台詞に、クロロは心中で笑う。とんだ検討違いである。オレは親でもなければ、Aは雛鳥でもない。

　＿＿＿＿捕食者と獲物。
執拗なほどに、彼女を欲し、じっとその瞬間を待つ自分はまさに。

「お前でも、つまらない冗談を言うんだな」
「つまらないかどうかは、後で分かることさ」

　蜘蛛、といえるだろう。旅団という巣に迷い混んだ小さな蝶を、蜘蛛は決して逃がさない。

　どんな手を使ってでも。

「……仕方ない。キミの気が変わるまで待つとしよう。最も、そうなる前に、ボクの気が変わっちゃうかもね」
　に、と気味の悪い笑顔を浮かべ、ヒソカは歩き出した。その青白い手に、一枚のジョーカーを持って。

　なるほどな。あまり焦らされたら、やりに来るってわけか。

　クロロは、奇術師の後ろ姿を見つめる。

　蜘蛛の巣に、囚われたのは彼女か彼か。残念なことに、小さな胡蝶は、いとも簡単に、蜘蛛の糸をすり抜けていくのだ。目の前で獲物がふわふわと泳いでいるのに、こちらの攻撃はひらりとかわされる。

　手のひらの上で、踊らされているのは、きっと。

「早めに、手を打つべきだな」

　片足の足りぬ蜘蛛はそれでも尚動き出す。愛しき獲物を、他の敵に食われぬ様。

　が、蜘蛛はまだ知らない。巣の外に、どれだけの世界が広がっているのかを。迷い込んだ蝶が、辿るその運命を。