【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ32)

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第三十夜　プディングの味は食べてみなければ分からないページ32

目が覚めた。窓が見える。さっき見ていた、キラキラした虹色の光はない。いつもの見慣れた住宅街の空だった。

「……朝か……」

　頬に何か温かいものが伝っていて、寝返りを打つと、私はそれをこする。
「涙……？」
　私、何で泣いてるんだろう。ぐしぐしと両目をこすり、二本の足で立ち上がる。
「あ、今日は休みか」
　あっちとこっちを行き来していると、なんだかどっちが現実で夢なんだか分からなくなる。
「あっちが現実だったらいいのに……」
　布団を畳み、ぺたぺたと裸足で狭い部屋を歩く。冷蔵庫の前で立ち止まり、扉を開けた。そもそも、あっちでのことが本当に現実かなんて、分からないものね。始めは、夢だ夢だとは思ってたけど……。皆といると、本当に彼らが存在しているように思えるから。

　冷蔵庫にあったプリンを取り出し、私は畳んだ布団の上に座った。持ってきたスプーンでプリンを掬う。ぷるんと揺れるそれが、何だか腹立たしくてスプーンにかぶりついてみる。……甘い。そういえば、彼は甘いものは好物だと言っていなかったっけ。
「向こうの世界にも、プリンはあるのかしら……？」

　冷蔵庫にプリンはまだ一つ残ってる。……そうだ。ならば、試してみたらどうだろうか。

「待ってなさい、クロロ。この夢を、証明してみせようじゃないの」

　実は、一つ分かったことがある。あっちの世界のものは、こちらの世界へ持ち帰ることはできない、ということだ。前にクロロが私に、小指サイズの指輪をくれたことがあったが、それは身に付けても、目が覚めれば私の手には何もなかったのだ。ちなみに後に、クロロがその指輪を所持していた(ポケットにあったらしい)。
　そしてダサいジャージで寝ようと、或いは全裸で寝ようとも、あちらの世界へ行くときは、なぜか寝ている時とは違う服装で、それは毎回同じ格好だ。何か決まりのようなものがあるのか、指定されているのか。まあクロロたちに会うのにパジャマというわけにもいかないんで、そこはちょっとありがたいと思っている。私服で寝るのはちょっと窮屈だものね。

　そして疑問なのは、こちらの世界のものを、向こうに持っていけるか、ということ。しかしどうやって持って帰ればいいんだろうか。
「このプリンと一緒に寝てみたら、あっちへ行けるかな？」

　しかし、やってみなけりゃ結果なんて分からない。プリンの味は、食べてみないと分からないものね。