第二十九夜 Fascinate ページ31
滲むような七つの光が、輝きを散らしてテーブルに降り注ぐ。グラスに水の注がれたその水面に、微かに色の粒が溶け込んで見えた。
鮮やかな色彩が、木漏れ日のように二人を包んだ。
その輝きは、彼女の髪にも反射して、より一層光が増して見える。やはり、卓上の殺風景な風景を照らすより、ここに彼女を座らせた方が映える。
やはりあんたは、“そういう場所”にいる方が良いのではないだろうか。オレとあんたじゃ、住む世界はあまりにも違いすぎる。
眩むような虹色を、Aは見つめる。女神のような女性を施したステンドグラス。
「きれいね……」
虹色の光が、見上げる彼女の横顔を照らしていた。長い睫毛が落とす影が震える。
「あぁ」
クロロは頷いた。
そして、ほんの一瞬、クロロが瞬きをした時だった。微かな光の粒を残し、彼女の姿は消えてなくなっていた。たった一瞬で、弾けた泡沫のように。
「逃げ足の早いヤツだ」
クロロは苦笑すると、卓上にコインを二枚置き、店を後にした。
来た道を戻りながら、クロロは朝焼けの空を見つめた。考えるのは、彼女のこと。
＿＿＿さて、いつまでこれが続くか。
クロロの思うことはただ一つ、彼女に残された時間があとどのくらいあるのか、ということ。いつまでもこんな日々が続くわけではあるまい。いっそこちらの世界に閉じ込めてしまえば、と何度考えたことだろうか。だが、自身の力を持ってしても、それは絶対にできぬことであった。そもそも彼女にこちらの理屈も概念も通じないのだ。つまりそれは……。
念能力が通じず、存在せず、ということ。
ま、素人にとって危険なものであるから、返って部外者の彼女に通じない方が安全で良いのかも知れない。
「いつまで経っても、盗めねえなぁ……」
彼女と出逢い早10年近い歳月が過ぎようとしているが。未だ、あちらの世界から彼女を連れ出すことはできない。
『さらっちまえばいいじゃねえか。オレたちで』
団の中で一番のバカ、いや、バカ力のある大男の言葉を思い出した。
分かっているさ、いつかは必ず。お前を、オレたちのものにしてみせる。
欲しいものは奪う。それが、盗賊だからな。
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作者名：アユミ | 作成日時：2018年11月15日 0時
