【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ4)

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第二夜　黒い傘の彼ページ4

「あの、」
「なに？」
　二人で雨の中を静かに歩きながら、彼女は彼に問う。
「あなたの、名前は？」
　なんだか妙にリアリティのある夢だ。本当に、この彼が実在しているように思えてしまうのだ。こんなの、自分が見ている夢なのに。因みに彼女がこの状況を夢だと確信している理由は、気が付いたらなぜか、この不思議な街にいたからである。全く身に覚えがなく、最後の記憶は、確か自分の布団に入ったことぐらいだったので、これは疲れた自分が見ている夢なのだと彼女は思うことにした。

　まるで別世界にでも来たような感覚に、最初こそ不安を覚えたが。

「オレは、クロロ」
「…クロロ、さん？」
　なかなか聞かない珍しい名前に、首を傾げる。クロロ？外国の人？にしては、日本語が上手である。というより、どう見ても日本人…。

　まあ世の中には、色んな親がいるから、変わった名前をつける親がいたっておかしくない。キラキラネームとはよくいうものだ。なんてこと、ちょっと失礼だけどね、と彼女は心の奥底に仕舞っておいた。というか、それよりも、これ夢だし。

「君は？」
「A、です」
「Aか…。素敵な名前だね」
　そう言ってクロロは笑った。なんとなく、Aにはこの笑顔が作り物のように思えた。優しく柔らかいのに、どこか無機質な声。

　なのになぜこんなに、胸が苦しくなるんだろうか。
「A」
　また、クロロが名を呼ぶ。やっぱり、そうだ。Aは思った。なぜこんなに、愛おしそうに呼ぶのだろう。今にも、彼は自分を……

「っ……？」
　クロロの手が、Aの手を引く。黒い傘がふわりと浮いて地に落ちた。ざあ、と降り続ける雨にまた身体が濡れていく。

　寒い、冷たい。彼の、身体も。

「く、ろろ…さん？」
　気が付けば、自分はクロロに抱きしめられていた。一体、何が起こった。不可思議なこの状況に頭がついていかない。温い雨がただ自分たちの身体に降り注いで、たちまちその匂いを強く染みつかせてくる。

　なんか、良いにおい…。

　この状況でそんなこと思う自分は異端かしら、と心の中で彼女は首を傾げた。そもそもこの状況が、おかしいのか。

　だって一応、これ夢なんだものね。

　黒髪の美青年に突然雨の中抱きしめられるなんて、ドラマか何かの世界か、と疑いたい。不思議と、恥ずかしさや、恐怖だなんて感情は湧かなくて。

　全然知らないのに、なんだか、懐かしいなぁ。

　そんなことを思いながら顔を上げた。