【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ30)

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第二十八夜　夜明け前ページ30

クロロが自分にとって理解の及ばぬ人物であることは分かった。所詮は住む世界が違うのだ。彼が何をしていようがこちらの口を出すことではない。

　盗賊……ね。

　窃盗。盗み。彼は今まで一体何をその手に入れてきたというのだろうか。
「ねえクロロ……。あなたって一体今まで何を盗んできたの？」
　すっかり冷めたコーヒーの水面に、自分の顔が映る。

　恐ろしいけども、その先が知りたい。残虐な事実がそこに待っていたとしても。クロロ、私はあなたを知りたいの。

「聞きたいか？」
「うん」
　クロロは小さく笑うと、手を組んで肘を付き、顔を乗せた。
「そうだな……。まずは」

　こうして、クロロの口から旅団の数々の悪事が語られた。中には悪事、だなんて一言で表せない洒落にならぬ話もあったが。
　しかし、へぇ、と淡々とAは聞いていた。そこに残虐な事実が混ぜられても、眉ひとつ動かさず黙って頷く。金やお宝だけじゃない。人体の一部だって盗む彼らに…。

　Aは驚くことをせず聞き続けた。

　ここで驚くのは負けだわ。知りたいと願ったのなら。受け入れる覚悟を負わなくちゃ。

「…あんまり驚かないね」
「もう初めて会った時に充分驚いたよ。今さら何を聞いても驚かないわ」
「ふっ……」

　突然、クロロが小さく鼻で笑うので、(名前
)は何よ、と一言返す。
「やっぱりあんた……変わってる」

　それはお互い様じゃないだろうか、と思いコーヒーの最後の一口を啜る。
「ねえ、幻影旅団って…」

　肝心なことを聞きたかったAが、口を開いた瞬間、サッと卓上に現れる何か。
「デザートのティラミスでございます」
　店の主人であった。テーブルの上に、美味しそうなティラミスが乗る。
「どうも」
　クロロが返事をすると、初老の主人は静かに席から離れていった。
「ねえ、りょだんの……ん、」
　喋ろうとして、口に入れられる何か。
「うまいだろ？」
「んぅ……」

　クロロが銀色のスプーンを揺らす。
「そりゃあ、おいひい…んむ」
「口についてる」
「クロロの入れ方が下手なのっ」
「ごめん」
　するとクロロは、スプーンを持った自分の腕をちらりと見る。時計だろうか、とAはそっと視線を送る。
「時間だ」
　時間？、と聞き返す前に、Aはその光景にすっかり目を奪われていた。

「……ここの席は、夜明けが一番綺麗なんだ」

　壁一面のステンドグラスに、鮮やかな光が差し込み、二人を虹色に染めた。