【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ12)

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第十夜　懐かしい理由ページ12

「あの頃のA、確か3つか4つとかね」
「ちっちゃかったよなぁ、あんときゃ驚いたぜ」
　フェイタンとフィンクスが語る。
「また会えるってお前が言っていたから、期待してみたらよ…。言葉も覚えたての初々しいちっちぇーお前が来た。あの時の団長の慌てぶりと言えば…」
　しみじみと昔を思い出すウヴォーギンにクロロは苦笑した。
「子守りなんて慣れていないからな」
「あの時はシャルが大活躍だったね」
　シズクがそう言うと、シャルナークが笑って言った。
「そりゃあこのメンツだったら、一番オレが安心できると思わない？」
　ははは、と談笑する彼らにAはようやく理解した。

　このひどく懐かしさを感じる理由を。もし、彼らの言うことが事実だとしたら。遠い昔、彼らに会ったことがあるから、自分は懐かしさを感じていたのだろう。
「だが、すぐに向こうに帰っちまったな」とウヴォーギン。「それから随分長い時間が経ったよね」とシズク。

「そして再びあんたがこっちに来たのが、半年前……」
　クロロが小さく呟く。

「でも結局は同じことの繰り返しだよね。昨日も、一昨日もずっと、あの日から…。キミはオレたちを知らないままだ」
　シャルナークの瞳がこちらに向けられる。美しいエメラルドグリーンがちらついた。

　Aは思った。なぜ彼らは、会っては記憶を忘れてしまうこんな自分に、いつまでも長々と付き合ってくれるのだろうか、と。こんな忘れっぽい人間、放っておけばいいものを。
　なぜ、何度も自分に会おうとするのだろうか、と。

「どうしてかしらね。何故か、あなたに会いたくなるのよ」
「わ、」
　す、と横にパクノダが並んだ。彼女の手が肩に乗る。まるで今、彼女は自分の心を見透かしたようだった。近くから見るパクノダの横顔は、どことなく儚さを感じた。きれいな人だな、と呑気にAは思った。
　「オレたちの原点だしねー」とシャルナークが笑った。原点？、とAは首を傾げる。
「ところでさ、楽しそうなのは良いけど、もうすぐ朝だよ…」
　コルトピの声に、全員が空へ視線を向けた。

　あぁ、自分は、元の場所に戻るのか、とAは思った。
「これでまた、あなたはあたしたちのことを忘れてしまう…」
　パクノダの言葉に、あ、とAは思い直した。そうか、帰って自分は…忘れてしまうのだ。ここであったことを。

　ずっと、何度でも。彼らは待っていてくれているのに。