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【本編】冥府と花の騎士38 ページ10

「これは…誰かの日記…?」

 私は、それを裏返す。しかし、特にこの"diary"以外に文字はなかった。

 中身は…。いや、そんな人の日記を読むなど、そんな不躾なことはだめよ。それに、ましてやこれはお城のもの。この城にいる誰かの日記であることは確かなんだから。本人の許可なく、勝手に読むなんて…。

「うぅ、でも、気になるな…」

 ほんの、少しだけなら…。

 ごめんなさい、と思いつつ表紙をめくった。

「…"その日、ついに私は父を討ち取った。長くも短くも感じたように思えたその闘いも、ようやく幕を下ろすことになったのだ"…」

 これ、…まさか…。私は、次にめくるそのページを、止めることができなかった。

『我が軍は無事に勝利を収めることとなった。多少非人道的な行為ではあったが、あの選択に悔いはない。責任は、全て私にあるのだ。王になった以上、父の行いの全て背負う所存である。この国を背負う覚悟などとうにできている。ならばもう後戻りはできまい。私はいちからこの国を建て直す。今度こそ、皆が笑って生きていくことのできる世を作るために。』

 デスハー、さま…。

 まぎれもない、王の手記だった。そうか、この箱の中身は全て、デスハーさまの…。

 それはどんな史書よりも、精巧に書かれた冥府の歴史そのものだった。デスハーさまが生まれてから見ていた景色、できごと、何もかもが全てそこには記されていた。あまりお顔を合わすことのなかった前王のことも、そこからなんとなく人物像が浮かび上がる。

 実の子にすら愛情を示さず、不老不死を求め数々の非道を行い、己の私欲の限りで国を病ませた愚かな王。

 なんて…下衆な…。きっと、子を設けたのだって、不死への実験の延長に過ぎないのだろう。そんな理由で、デスハーさまたちを…。命を一体なんだと思っているのか…。

「愛情を…人の心を…一体なんだと思っていたの…?」

 きゅ、と握りしめた手が、書物に皺を作る。いけない、人様の大切な日記に…。いけないと知りつつ、ページをめくる手を止めることはできなかった。

『もう、父の行いに目を瞑るばかりではこの国は変わらないだろう。ならばどうするか。あの方には、言葉も思いも心すら通じない。そんなものに真っ向から話し合いを持ちかけるなどもはや何の意味もなさないことは分かっている。この荒んだ冥府を救うこと。それが長男として生まれた私の使命。即ちそれは、父を殺すこと』

 その一文に、心が、潰れそうだった。

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作者名:アユミ | 作成日時:2022年5月31日 2時

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