検索窓
今日:13 hit、昨日:0 hit、合計:2,998 hit

【本編】冥府と花の騎士37 ページ9

デスパーさまは、そう微笑んで私の頬を両手で包んだ。
「あなたはきっと、強くなれる。誰よりも」
「はいっ…」
「己を信じなさい。その気持ちを、忘れないで」

 デスパーさまは優しく笑った。そうだ…。こんなところで、挫くわけには、いかないの。

大丈夫。大丈夫よ、私。強く、なろう。この力に恥じない自分に。

あの方の、隣に立てるような自分に。

「さ、Aくん」
「はいっ」
「注文よろしいでしょうか」
「はいっ!」

 それから…ひたすら酒場でのバイトをこなす一方、私は城へもちょくちょく出入りするようになった。というのも、お城には沢山の本があったから。

冥府のことを知るには、それしかないと思った。あの日のことも。

「確かに、(ウチ)ならば沢山書物がありますね」
「お城のを…でも良いのですか?」
「兄者にも話を通しておきましょう。別に減るものじゃありませんし」
「ありがとうございますっ」
 度々、城の書庫へお邪魔をすることとなった。たまに、覗きにきたオウケンさまやデスパーさまと談笑も交えながら。

「やあA。励んでいるかい?」
「オウケンさまっ」
 その日も、いつものように書物を広げて読み漁っていると、オウケンさまがいらっしゃった。
「熱心だねぇ。若い頃の兄者を思い出すよ」
「デスハーさま、ですか?」
 そばの椅子に、オウケンさまは腰かける。
「兄者は勉学にも熱心に励む人だったから。よくそこで君と同じように本とにらめっこをしていたんだ。真剣に読んでいるから、あまりオレの声も届かなくてね…」
「なんとなく、想像がつきます」
 神妙な面持ちで本を読むデスハーさまと、それに甘えるオウケンさまの図が。

「もうじき、デスパー兄もここを出て行くんだってね」
「はい。もうすぐ、稽古をつけていただきます」
「デスパー兄が城から去ってしまうのは寂しいけれど…。それ以上に、Aがどんな風に成長するか楽しみでたまらないよ」
「ふふふ」
「待ってるよ、A」
 くしゃり、とオウケンさまの大きな手が私の頭を撫でた。
「君なら、きっと大丈夫だ」

 そして、私は"あの日"の全てを知ることになる。

「これ…」
 それは本に重ねられて、隠れて見えなかった一つの木箱。そこに収められた、分厚い書物。何かの記録…?

 それは何冊もあって、紐に縛られている。

 中を取り出し、一冊を手に取った。

「diary…」

 表紙の文字を読んだ。

【本編】冥府と花の騎士38→←カゲのたからもの 4



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (14 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
18人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:アユミ | 作成日時:2022年5月31日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。