【本編】冥府と花の騎士37 ページ9
デスパーさまは、そう微笑んで私の頬を両手で包んだ。
「あなたはきっと、強くなれる。誰よりも」
「はいっ…」
「己を信じなさい。その気持ちを、忘れないで」
デスパーさまは優しく笑った。そうだ…。こんなところで、挫くわけには、いかないの。
大丈夫。大丈夫よ、私。強く、なろう。この力に恥じない自分に。
あの方の、隣に立てるような自分に。
「さ、Aくん」
「はいっ」
「注文よろしいでしょうか」
「はいっ!」
それから…ひたすら酒場でのバイトをこなす一方、私は城へもちょくちょく出入りするようになった。というのも、お城には沢山の本があったから。
冥府のことを知るには、それしかないと思った。あの日のことも。
「確かに、
「お城のを…でも良いのですか?」
「兄者にも話を通しておきましょう。別に減るものじゃありませんし」
「ありがとうございますっ」
度々、城の書庫へお邪魔をすることとなった。たまに、覗きにきたオウケンさまやデスパーさまと談笑も交えながら。
「やあA。励んでいるかい?」
「オウケンさまっ」
その日も、いつものように書物を広げて読み漁っていると、オウケンさまがいらっしゃった。
「熱心だねぇ。若い頃の兄者を思い出すよ」
「デスハーさま、ですか?」
そばの椅子に、オウケンさまは腰かける。
「兄者は勉学にも熱心に励む人だったから。よくそこで君と同じように本とにらめっこをしていたんだ。真剣に読んでいるから、あまりオレの声も届かなくてね…」
「なんとなく、想像がつきます」
神妙な面持ちで本を読むデスハーさまと、それに甘えるオウケンさまの図が。
「もうじき、デスパー兄もここを出て行くんだってね」
「はい。もうすぐ、稽古をつけていただきます」
「デスパー兄が城から去ってしまうのは寂しいけれど…。それ以上に、Aがどんな風に成長するか楽しみでたまらないよ」
「ふふふ」
「待ってるよ、A」
くしゃり、とオウケンさまの大きな手が私の頭を撫でた。
「君なら、きっと大丈夫だ」
そして、私は"あの日"の全てを知ることになる。
「これ…」
それは本に重ねられて、隠れて見えなかった一つの木箱。そこに収められた、分厚い書物。何かの記録…?
それは何冊もあって、紐に縛られている。
中を取り出し、一冊を手に取った。
「diary…」
表紙の文字を読んだ。
18人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:アユミ | 作成日時:2022年5月31日 2時