冥府と花の騎士 2章 (ページ20)

今日:4 hit、昨日:15 hit、合計:3,004 hit

【本編】冥府と花の騎士４５ページ20

｢…私のこの力は、先祖である神から受け継いだ力、ということなのですね｣
｢えぇ。そして、あなたはかつて存在した黄泉の国の、王女なのです｣
｢そんな…｣

　自分は最後の王族の一人。にわかには信じ難い話だったが、デスパーさまの真っ直ぐな瞳を見ればそれが紛れもない真実だと思わざるを得なかった。
｢あなたを含めた黄泉の存在を、サトゥンはずっとひた隠しにしていました。私たちはずっと知らなかった。黄泉のことも、あなたのことも。本当に…｣
　ぐ、とデスパーさまは手を握る。
｢一国を滅ぼし、その王族までも破滅へ追い込み、あまつさえその子供を…｣
　唇を噛み締めたデスパーさま。
｢あの非道な父を、兄者がその手で葬ったこと。確かに父親を殺したことに変わりはありませんが、私は誇りに思っています。まあ、兄者一人にその重荷を背負わせ、傍観者を貫いた私が言う台詞ではありませんがね｣
　デスパーさまはそう自嘲した。
｢そんなことは、ありません。…そんな、ことは…｣
　どんなに前王が酷い人だったとしても。あなた方ご子息は何の罪もないのだ。血縁だけで、その罪を背負う必要はないはずだ。
｢それでも私は、あなた方ご兄弟に、救われました…｣

　デスパーさまが惜しみなく注いでくれる優しさやいとおしさも、オウケンさまの太陽のような笑顔も真っ直ぐな思いも、そしてデスハーさまの王としての誇りも気高さも。

　その全てが私を救ってくれた。

｢もしも、それでも…デスパーさまが己で罪を償うと仰るのであれば…｣
　その背負った闇も罪も私に代わることはできないが。
｢罪滅ぼしと思い、どうか私に、力を…｣

　この力を正しく使えるように。巨大な金棒を振り回し、その雷で民を守り抜くあの王のように。
　私も王族の血を引く身であるならば、あの偉大な王と並んで歩いてゆきたいから。私もあの王さまのように、揺るがなき信念を、誇りを持ち続け人々のために立ち向かっていけるような王族でありたい。

　どうか、デスパーさまの力を。お知恵を。私に授けてください。
｢私がこの2本の足で立ち、正しい道でたくさんの人を救えるように。どうか、力を貸してください。道を示してください｣
　今度こそ、大切なものを守れる力を。
｢どんな険しい道でも、師匠を信じ、私はあなたの指さす先へ歩みます！｣

　デスパーさまの瞳に、光が宿る。それは私が、生涯で出会ったたった一人の、我が恩師の瞳だった。