【本編】冥府と花の騎士40 ページ14
「なぜお前が、泣く必要がある…?」
片手にでも収まるくらいの頬に、指が触れた。そっとその涙の跡を拭う。思った以上に柔らかく温かいそれに、なぜか不思議と心が鳴る。
日記を取ろうとしたが、その手を止める。もうどうせ見られてしまったのだ、仕方ない。さすがに、弟たちに見られるのは兄として示しがつかないので困るが…。日記も全てそのままにし、デスハーは地面の花を避けるように歩きその場を後にした。
あの幼き頃の自分はいない。今ここにいるのは、王になった自分である。もう、あの頃のように泣くわけにはゆかない。
それに涙は、代わりに彼女が流してくれた。
ゆこうか、何が待っていようとも。この背にあるものを守るために。
この国の全ての民の、世のために。
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「準備はできましたか?」
「は、はいっ」
よろしい、とデスパーさまは頷いた。ついにデスパーさまもお城を離れることになり、私の修行も始まることとなったのだ。宿まで迎えに来てくれたデスパーさまに、「準備はばっちりです」と答える。
「デスパーさま、新しいお宅って一体どんな…」
「あれですよ」
「あれ?」
ずんずんと二人で街を歩きながらデスパーさまのお家へ向かっていた。あれ、と指さされた方向を向けば、なんだか他と比べてひと際豪華そうなお家。それに、ちょっとゴージャス。
「あ、あれですか!?」
「高貴でハンサムな私にふさわしい家でしょう?」
にっこりとデスハーさまは笑う。
「なんだか立派な石造もありますね…お城より華やかだ…」
「あの城は、私の趣味には合いませんからねぇ。どうぞ、上がってください」
「おじゃまします…」
中は見た目よりもずっと広くて可愛らしいお家だった。部屋も幾つかある。
「そこがダイニング。あぁ、あなたの部屋はこちらです」
「お、お部屋まで…」
「まあ長く居てもらいますし、ご自分の部屋は必要でしょう?」
「荷物が整ったら、昼食にしましょう」とデスパーさまは付け加えた。
荷物を整理し、ダイニングへ向かうと何やらテーブルにチラシを広げているデスパーさま。
「デスパーさま、何か?」
「あぁ、出前でも頼もうかと」
「え、出前!?」
「えぇ。あら、苦手ですか?」
「い、いえ私は何だって嬉しいですが…。ここまでの出前ですとなかなか高くつくと思いますよ…。それに、お庭にたくさんお野菜がなっていました。あれは、召し上がらないのですか?」
【本編】冥府と花の騎士41 ※7/23公開→←【本編】冥府と花の騎士39
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作者名:アユミ | 作成日時:2022年5月31日 2時