検索窓
今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:2,987 hit

【本編】冥府と花の騎士40 ページ14

「なぜお前が、泣く必要がある…?」

 片手にでも収まるくらいの頬に、指が触れた。そっとその涙の跡を拭う。思った以上に柔らかく温かいそれに、なぜか不思議と心が鳴る。

 日記を取ろうとしたが、その手を止める。もうどうせ見られてしまったのだ、仕方ない。さすがに、弟たちに見られるのは兄として示しがつかないので困るが…。日記も全てそのままにし、デスハーは地面の花を避けるように歩きその場を後にした。

 あの幼き頃の自分はいない。今ここにいるのは、王になった自分である。もう、あの頃のように泣くわけにはゆかない。

 それに涙は、代わりに彼女が流してくれた。

 ゆこうか、何が待っていようとも。この背にあるものを守るために。

 この国の全ての民の、世のために。

____________
「準備はできましたか?」
「は、はいっ」
 よろしい、とデスパーさまは頷いた。ついにデスパーさまもお城を離れることになり、私の修行も始まることとなったのだ。宿まで迎えに来てくれたデスパーさまに、「準備はばっちりです」と答える。

「デスパーさま、新しいお宅って一体どんな…」
「あれですよ」
「あれ?」
 ずんずんと二人で街を歩きながらデスパーさまのお家へ向かっていた。あれ、と指さされた方向を向けば、なんだか他と比べてひと際豪華そうなお家。それに、ちょっとゴージャス。
「あ、あれですか!?」
「高貴でハンサムな私にふさわしい家でしょう?」
 にっこりとデスハーさまは笑う。
「なんだか立派な石造もありますね…お城より華やかだ…」
「あの城は、私の趣味には合いませんからねぇ。どうぞ、上がってください」
「おじゃまします…」
 中は見た目よりもずっと広くて可愛らしいお家だった。部屋も幾つかある。
「そこがダイニング。あぁ、あなたの部屋はこちらです」
「お、お部屋まで…」
「まあ長く居てもらいますし、ご自分の部屋は必要でしょう?」
 「荷物が整ったら、昼食にしましょう」とデスパーさまは付け加えた。

 荷物を整理し、ダイニングへ向かうと何やらテーブルにチラシを広げているデスパーさま。
「デスパーさま、何か?」
「あぁ、出前でも頼もうかと」
「え、出前!?」
「えぇ。あら、苦手ですか?」
「い、いえ私は何だって嬉しいですが…。ここまでの出前ですとなかなか高くつくと思いますよ…。それに、お庭にたくさんお野菜がなっていました。あれは、召し上がらないのですか?」

【本編】冥府と花の騎士41 ※7/23公開→←【本編】冥府と花の騎士39



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (14 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
18人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:アユミ | 作成日時:2022年5月31日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。