冥府と花の騎士 2章 (ページ11)

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あなたのその手が、力をくれる。１ページ11

「…あ、デスハーさまっ」

　それは夜も更ける頃。一人城内を歩いていたデスハーに声をかけたのは、Aであった。
「お前…決戦の前夜は早く寝ろと言ったはずだ」
　明日の戦いに支障が出てはならん、とデスハーは付け加える。そばへ寄ってきた彼女に、いつの間にか頬が緩みそうになるも、無意識にデスハーはその眉間へ皺を寄せた。

「では、王も早くおやすみにならないと」
「お前と違って王は忙しい」
　そう答えたデスハーに、Aは忙しいそうには見えないなぁ、と思った。
「常日頃、色々と考えているからな…」
　思わず零れた弱音に、デスハーは自嘲する。あぁいかんいかん、どうも彼女には気が緩むというか、乱されるというか…。
「はい。たくさんのことをお考えになって、この国のためにあらゆる手を尽くそうとして下さっていること、身に沁みて分かります。デスハーさまのおかげで、この国の皆さんの笑顔がありますから」
　真っ直ぐな目がこちらを見上げていた。
「またお前は、知ったように言うなァ…」
　そう言ったデスハーの顔は、どこか仕方ないといったような、やれやれといったような。

　敵わないといったような、そんな顔で。

　あぁ、少し、でしゃばりすぎてしまっただろうか、とAは下を向く。
「明日の戦いだが…」
　デスハーのふいな呟きに、「はい」とAは答える。
「死ぬなよ」

　それは、切実な一言だった。
「はい…。必ず。主君を置いて、部下が先に死ぬなど…。私は、あなたより先には死にませんっ」
　振り返って、そう答えた彼女の瞳は真っ直ぐで。
「ッフ。そうだな、お前は意外と、タフなヤツだったな」

　明日は避けられない戦いがあった。冥府騎士団を率いて、敵方の国へ参らねばならない。無論、王である自分も共に。まだ騎士としての地位も低い彼女は王のそばで戦うことはない。彼女の戦いをデスハーが間近で見ることはあまりなかった。だからこそ、願わずにはいられない。

　死ぬな、と。

　私の見ていないところで死ぬな。

　勝手に、一人死ぬなど、許すものか。

「デスハーさま」
　呼ばれたAの声に、デスハーは我に返る。
「なんだ」
「あの…」
　少し遠慮がちに問うそれは、小さな声で。
「その…お手、を…」
　言われたその一言に、デスハーは少しだけ目を見開く。デスハーが自分の手に視線を飛ばすと、ゆっくりと華奢な手がそこへ伸びて、触れた。

　それは、自分のよりも、もっと柔らかで繊細な温もり。