冥府と花の騎士 (ページ8)

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【本編】冥府と花の騎士 2 ページ8

＿＿＿その娘の状態は、目をそらしたくなるほど、酷いものであった。

　その娘の名は、A。遥かなる先祖が神の末裔だったことから、少しの魔力があるらしく、それに目を付けたのが元王のサトゥンであった。サトゥンは彼女の涙に、不老不死のヒントがあると思い研究に没頭した。

Aの涙には不思議な力があり、涙の落ちたそこには、草花が芽生えるのだという。そして死んだ命を、吹き返すことが可能であった。

　サトゥンの研究した記録によると、死んだ小鳥に一粒涙が落ちたとき、その小鳥は何ごともなかったのように空へ飛び立っていったそうだ。

　もちろん涙をコントロールなどできず、彼女を泣かすために散々な非道な行いが繰り返し行われたのは言うまでもない。胸糞の悪いその内容に、デスパーは顔をしかめると、すぐにその記録を閉じた。
　こんなもの、すぐにでも燃やしてしまいたいくらいだ。

「…デスパー兄さん」
「ひどいもの、ですね。我が父でありながら、なんと恥ずかしい…」
「もう、あの方はこの世にはいません。これからは、兄者がこの国をよりよくしてくれます。オレはそう信じています」
「ええ。私も…兄者を信じていますよ」

　彼女の状態はひどいもので、回復するには暫くの時間が必要であると医師に告げられた。今は、城の医務室で穏やかに眠ってもらっている。
「兄者なりの、罪滅ぼし…でしょうな」
　デスパーは、自分が何よりも愚かで、卑怯であることは分かっていた。戦いの場から遠く離れた場所にいながら、デスハーを罵ったのだ。

『私は兄者を軽蔑する！』

　言ってはならない台詞であることはあの時だって分かっていた。それでも、あの光景を見れば止めどなく思いは溢れてきた。

　あの非道で残虐極まりない父から、この国を取り返したくて。守りたくて。

　この国を変えたくて、兄弟で立ち上がったのに。

　あれでは本末転倒だ。いや、戦争というものがそうなのか？一体、何が正解なのか？あの時、あの状況での、デスハーの判断がそうせざるを得なかったことだって分かる。

　自分が、甘いのか？戦争だから、仕方のないことだと、言い聞かせていいのか？

「私には、分からない…」
「…デスパー兄さん…」

　多大な犠牲と罪を重ね出来上がったのが、この新しい冥府である。ならば、その犠牲になった者たちにできるせめてもの報いが、この国を守り続けることだ。

　デスハーは、全てを背負って、王となり守り続けるつもりだ。