【本編】冥府と花の騎士 36 ページ48
「…私、自信が…ありませんっ」
ぽたり、と涙は落ちていく。
「デスハーさまに、返す言葉が、ありませんでした…。それでも、やってみせます、と。そう答える勇気が…」
「では辞めるのですか」
頬に、デスパーの大きな手が重なる。
「一国の王にあんな啖呵を切っておいて、結局自分には無理だ、と。諦めるのですか?」
「…、だって…」
「私はそんな弱腰に時間をかけるほど暇ではありません。あなたにその意思がないのなら、弟子の件もなかったことにしましょう」
「で、デスパーさまっ」
「残念です。あなたが、王と共に立ち、闘いたいと。そう言ってくれたときはとても嬉しかったのですが…」
「…!」
「王への忠誠は、所詮その程度のものでしたか」
ガタ、とデスパーは席を立ちあがった。
「この国の王を、舐めないでくださいね。たかが人に無理だ、と言われたくらいで揺らぐような心では、王の隣に立つことなどできませんよ。兄者がどれほどの思いでここまできたか…」
デスパーは、背を向けた。そして、こちらをちらりと見た。
「あなたが一番それを、よく知っているはずですが…」
ぽたり、と最後の一滴が床に落ちた。そして、それは一凛の花を咲かせる。
あぁ、私は…。なんて、愚かな…。
『死ぬな』
その一言を、一度だって忘れたことはなかったのに。あの王さまの、横に立って、私も…。
そうだった。何を、そんなに嘆く必要があろうか。
「待って…ください」
デスパーは、足を止めた。
「私は…」
私は、と続けるA。
「王さまに、全てを誓いました。今更こんな…」
こんなことで、泣いてどうする。挫けてどうする。こんな弱い心じゃ、あの方のそばになんか立てない。
何が、自分にできることはあるだろうか、だ。こんな弱腰の者に、できることなんてあるはずがない。
「今更、こんなことで、諦めやしません」
デスパーが、こちらを振り返った。
「もう、自分のことで泣かないと決めたのに…」
ぐし、とAは涙を拭った。
「デスパーさま。もう一度、お願いします。私を、強くしてください」
「…もし私が、できないと言ったらどうしますか?」
「それでも、お願いをします。あなたが聞き入れてくださるまで、何度でも。頭を下げます」
「誰に何を言われても?」
「私は、私を信じていますからっ」
デスパーは、ふ、と笑った。
「それでこそ、私の見込んだ女性です。Aくん」
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作者名:アユミ | 作成日時:2022年5月2日 22時