冥府と花の騎士 (ページ43)

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【本編】冥府と花の騎士３１ページ43

「兄者、着きましたよ」
「おぉ、やっているな」
　家は寝静まっているのに、この繁華街は明るく昼間のような賑わいだ。
「おい、なんだか視線を感じるぞ。もうバレているんじゃないか？」
「兄者、フードを被ってくださいっ」
「むしろこれがいけないような…」
　そんな言い合いをしながら、店へ入る。カラカラと懐かしい音が響き見知った店内が視界に広がった。

　あぁ、久しぶりだ。

　店内のお客もこちらに気付くが、特に近づこうとはしてこない。オウケンが、「お忍びです。どうかご内密に」なんて言いふらすものだから、なんだか見守られるような視線を送られてこそばゆい。
「お前ちょっと楽しんでいるだろ…」
「楽しいですよ」
　そう言って嬉しそうに笑うオウケンに、デスハーも呆れて笑うしかなかった。
「いらっしゃいませ…」
　席に着いた時、聞き覚えのある声がする。ドカ、と椅子に座り視線を横にやればよく知る人物がそこにいた。

「デスハー…さま…？」
　カラン、と氷が音を立てた。
「お前…」
　そこには、水の入ったコップを片手に持ったAがいた。
「な、なな、なぜここにいらっしゃるんですか！？」
「お前こそここで何を」
「A！良かった、会えて」
　オウケンが席から身を乗り出す。
「デスパー兄からここで働いてるって聞いたから会いに来たんだ」
「あぁ、デスパーさまに…」
「おいちょっと待て。聞いていないぞ」
「兄者を驚かせたかったんで」
「なんだそりゃ」

　ここで、コイツが働いているだと？罰の悪そうな顔をし、どこか恥ずかし気な彼女に怪訝な視線を送る。あの金の亡者め、こんな小娘からそうまでして金をふんだくる気か…？
「しかし深夜まで働くとは、精が出るねA」
　いつの間にか彼女に水を注いでもらっているオウケン。
「えぇ。やはり夜の方がお給料良いですし…」
「おい」
　話し出す二人に、デスハーは制止の声をかける。
「そんなに高いのか…ヤツの講習は」
「？、一応出世払いとは言われましたが…。いつか私が立派な騎士になったら、たくさん恩返しをするつもりです」
「そうまでして、お前…」
　不思議そうな顔をするA。別にこの娘のことが心配などというわけではないが、これではあまりに不憫だ。デスパーめ…。いささか俗物的な一面があると思ってはいたが。