【本編】冥府と花の騎士 ２９ ページ41
「あの、店番募集と聞いたんですが…」
「私にも、お手伝いできませんか？」
「雇っていただけませんか！」
商店を歩き回り、声をかけ続けて半日。これで、何件目だろうか。Aは、広場にあった大きな銅像の前に座り込む。思い出すのは毎回頼むたびに言われる断り文句。
『あんたみたいな弱そうな女、何ができるってんだ』
確かに力仕事ばかり見かけたが、自分はやっぱり他者から見てそんなにも弱いのだろうか。力にはそれなりに自信はあったのだが。
「でも、諦めるのはまだ早いわっ。なんとしてもお金を稼がなくっちゃ！」
こんなところでへこたれるわけにはいかない。そうだ。こんなところで挫いては、王に向ける顔などありゃしない。
「見つかるまで今夜は眠らないわっ」
すくっと立ち上がると、ふと銅像が目に入る。
「こ、れ…」
この存在感と、王の貫禄。右手に大きな金棒と左手に花。それは…。
「デスハー、王…」
そうか…。この国の人々は…。
あの王さまを…。
「皆様に、とてもお慕いされているのですね」
あぁ、なぜだろう。この像を見たら、無性にあの王に一目会いたくなってしまった。あの大きな背中を、もう一度見上げたい。もう一度、名を呼んでもらえたら元気が出るのに。
「私頑張ります、デスハーさま」
よし、とAは意気込む。
「バイト探し再開よ！」
ところ変わってここは冥府の城。玉座に座るのはデスハー、そしてその前に立つのは弟のオウケンである。
「Aはもう、ここを出て行かれたそうですね」
「みたいだな」
オウケンは嬉しそうに語った。
「デスパー兄から聞きましたっ。あの子を弟子にするそうですね！」
「フン、アイツもまた物好きなものだ」
「私も、楽しみにしています。彼女がまた、ここに戻ってくるのを」
「オウケンよ。本当にあの娘が冥府騎士団に入れると思うか」
デスハーの問いに、オウケンはきっぱりと答えた。
「デスパー兄の剣術の教えは世界一です。兄さんも、きっと何か考えがおありで彼女を受け入れたんでしょう。それに私は…」
あの子を、信じたい。オウケンはそう続けた。
「…そうか」
ふう、と息をつくデスハーにオウケンはふっと笑う。
「少し、寂しいですね。この城から、彼女がいなくなるのは」
「いつもと変わらんけどな」
そう答えるデスハーにオウケンはまた静かに笑った。
「早く…帰ってくると良いですね」
「…フン」
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作者名：アユミ | 作成日時：2022年5月2日 22時
