どうしようもない愛しさ ページ5
「デスハーさまー」
「なんだ」
「ふふっ」
「何がそんなにおかしい」
「…おかしい、というか楽しいなあと」
「なんなんだ、気色の悪い」
ある日の昼下がり、業務がひと段落つき退屈であったため、Aを呼び出し何か面白いことをしてみろ、といつものように無理難題を吹っ掛けた矢先であった。
まあ騎士にそんなことをする道理はないのだが、彼女だから少し意地の悪いことをしてしまいたくなる。
いつものように、Aの百面相で綴られる、町でのあれやこれやの話、正直内容は右から左に受け流しているので、どちらかというとくるくる変わる彼女の表情を楽しんでいるというのが本音だ。
「私はデスハーさまと一緒にいるのが好きです。楽しいです！だって、デスハーさま、難しい顔をしながらいつももんもんと考えてらっしゃって見ていて面白いんですもの」
「お前…王の前でよく言えるな」
一体王という仕事がどれほどのものなのか分かって言っているのだろうか。
しかしまあ、よく笑う娘だ。
「別に何も考えてなどおらん」
「なら尚のこと面白いです」
こいつ…なんとなくコケにされているような気がしないでもないが…。彼女でなければ今すぐ問答無用で雷を落としてやりたいところだが、なぜかそれができない。色々言ってやろうと思っても、彼女が笑ってしまえば、それすらもバカらしくて言う気が失せてしまう。はァ。全くどうしてしまったものか。
「それで、隊長との試合中に、隊長ったら…、って、いた、なん、何をなさるのですか…」
彼女の話なんぞ微塵も聞いていないため、なんとなく遊んでみたくなり、王笏で頬を突いてみる。珍妙な顔をして、嫌がるAのなんと愉快なことか。これで少し時間が潰せそうである。
面白いのは、お前の方だ、A。
いきなり楽しそうに笑ったと思えば、突然悲しげな表情、かと思えば頬を真っ赤にして照れたりする。
なんと感情の移り変わりが激しいこと。お前を見ている方がよほど面白く、俺は退屈しないんだがな…。
今、彼女が見せる表情全て…自分のものにしたいなどと馬鹿げた感情を抱いている自分は一体。
あぁ、本当に。
どうしようもない。
＿＿＿＿＿＿
「もうデスハーさま、王笏は人を小突くためのものではありません」
「いや、これはお前を小突くためだけに作ったものだ」
「嘘です！それで首を掻いたりしていらっしゃいますよね。孫の手じゃないんですよ」
「うるさい黙れっ」
「いたたっ、」
【本編】冥府と花の騎士 ーintroductionー→←今宵、月に照らされて
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作者名：アユミ | 作成日時：2022年5月2日 22時
