冥府と花の騎士 (ページ37)

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花の冠を君に ※おまけ2 ページ37

デスハー様も欲しいのですか、などと見当違いなことを言うものだから余計にバカバカしくなる。
「い、悪戯はよしてくださいねっ…」
　不安げにこちらを見る彼女に、裏返したり近づけたりして見ていたデスハーは手を止めた。ふいに生まれた悪戯心も、今の表情でどこかへ消えてしまった。ぱさり、と花の冠をAの頭に戻す。
「…、ありがとうございます」
　
　あのボッスの息子が、彼女の頭にこれを乗せる時は、きっとこんな風には渡さないのだろう。

　全く子どもには感心する。いとも簡単にこんなものまで渡せてしまうのか、と。あんな風に笑わせて。そして、簡単に喜ばせてしまうのか。自分もボッジのように幼ければ、こんなもの幾らだって作ってやれたのかも知れない。

　だが。

　デスハーは、ふっと笑うと言った。
「あの無能にも、できないことがあるな」
「デスハー、さま…？」

　少しずれた花冠をそっと直すデスハー。
「あの…」
　言いかけた、彼女が止まった。冠の位置を戻したデスハーの手はすっと下へ降りて彼女の髪を撫でながらゆっくり頬へと落ちていく。片手にすっぽりと収まりそうなその頬は、気付けば薄紅色に染まっていた。

　それを見ただけで、ずっと渦巻いていた腹立たしさも、何もかもが消えていく。その顔を見せるのは自分だけでいいはずだ。

　やや癖のある彼女の髪に指を通す。そして柔らかな頬を撫でながらデスハーは言った。
「お前の王(あるじ)は、この私だぞ」

　主人以外に尻尾を振るなど、あってはならないこと。

「他のヤツには触れさせるな。いいな」

　ッフ、とデスハーは笑うと、そのままヒヒヒ、といつものように悪戯に笑ってのける。顔を真っ赤にした彼女を余所に。
「お？どうした、動かなくなったな」
　ヒャヒャヒャ、とデスハーは笑う。人形のように動かなくなった彼女を小突く。
「で、デスハーさまは、ずるいですっ」
　ッキ、と彼女は頬を染めたままこちらを睨みつけるが、デスハーはむしろそれがいじらく感じた。もっと悪戯をけしかけ、また魔神のように赤くなる彼女を見たいと思うのは、本当にただの悪戯心からなのだろうか。

　それとも。

「今度デスハーさまの頭にも、アホみたいな花を乗せてやるんですから」
「おほっ。王に宣戦布告とは、いい度胸だな」
「お花の王さまにしてしまいますよ」
「そりゃ傑作だ」

　後に冥府の国に空前の花冠ブームが巻き起こるのだが、王はそれを意地でも被ろうとしなかったとか。