冥府と花の騎士 (ページ31)

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【本編】冥府と花の騎士２３ページ31

「お前たち…何のようだ」
「仕事中に失礼。兄者。今すぐに、とは言いませんが少し話がありましてね。私のことも、そして彼女のことも」
　デスパーの台詞に、デスハーはAを一瞥する。
「…分かった。後で時間を作る。夕刻で良いか」
「分かりました。すみません、忙しいところに…」
「なんだ、嫌味を言いにきたのか？」
「いえ。ただ、もう少し面倒な仕事を、押し付けたっていいんですよ、と」
「はァ？」
「…ハンコを押す以外にも、私にできることはあると言っているんですっ。…では、失礼します」
　ペコ、と続けてAがお辞儀する。デスハーはぱちり、と瞬きをした。ガチャン、と大きな音を立てて扉が閉まっていく。

「…ッハ、また随分とデカい口を」
「で、デスハー様…。あのご予定は」
「いや。もうよい。それより…」
　デスハーの問いかけに、職員が答える。
「っは」
「視察には、私の弟を向かわそう。それで、いいだろ？」
「…構いません。国王も、そしてその弟君のことも、国民は皆慕っておりますから」
「そりゃよかった」

　夕刻、玉座に座るデスハーの前にいるのはデスパーとA。久方ぶりに見た彼女の姿に、デスハーは少しだけ眉を動かす。相変わらず小さい…。ちゃんと飯は食っているのか？と考える。
「…で、話ってなんだ？」
「…もうしばらくしたら、私、城を離れようと思いまして」
「あァ。それはまた、急だな」
「もともと、王族なんてガラじゃないんですよ私は…。あなたのように、力も統率力もなければ、オウケンのような武の才能もない。ずっと腰を落ち着かせる仕事も向いてはいないようですし」
「それは確かに、向き不向きがある。が、お前のその…機転の良さや発想は、必要だった」
「兄者…」
　素直でない方々…、と横でAは思った。それと同時に、思い合っているのにどうもすれ違っていく二人がなんだか見ていて面白い。オウケンさまはあんなに素直で真っ直ぐな方なのになぁ。
「…ふふっ」
「なんです」
「…あ？」
　Aがふいに小さく笑い、二人は怪訝な視線を向ける。
「デスパーさまは、仰っておられました。もっと自分をコキ使えばいいのに、と」
「ちょっとAくん…っ」
　少し頬を赤らめたデスパーが言った。
「…あなたは、王だからといって、何でも一人で抱え込み過ぎだと言っているんですっ。我々がいるでしょうに。オウケンだって…同じ思いですよ」
「…！」
　デスパーの台詞に、デスハーはふ、と笑った。