冥府と花の騎士 (ページ4)

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今宵、月に照らされてページ4

城内を歩いていると、窓辺に座り月明かりを見上げる彼女がいた。

また随分とそんな高い所へ登るものだ。見上げて映る白んだ彼女の姿は、幻想的でどこか儚く、美しかった。あんなに綺麗だったろうか、と思う。

｢…！｣
振り返った彼女と視線がぶつかり、思わずデスハーは視線を逸らす。
｢すみませ、デスハーさま…すぐに降り…きゃぁ！？｣

窓辺から落ちた彼女をなんなく片手で抱き留める。

軽い。自分よりも、はるかに小さく華奢で。
よくもまあこんななりで騎士をやれているものだと思う。

｢我が冥府の騎士が…笑わせる｣
｢返す言葉もない、です…｣

片腕に乗る温かさは紛れもなく彼女の重みと体温。それに気付くだけで、なぜか少しこちらの体温も上がる。
そそくさと彼女がすぐに降りた。

｢…これでは冥府騎士団、失格ですね｣

困ったように苦笑する彼女。
離れていった温度が、なぜか名残り惜しい。

｢ここから月なんぞ見えるのか｣
｢…はい。明かりが少しだけ入ってきます｣
｢好んでこんなところに住むとは、お前も物好きなものだ｣
｢他に帰る場所は、ありませんし…｣
｢ﾌﾝ、デスパーならいつでも歓迎するがな｣

確かにそうだが、なぜここで弟の名を出してしまったのか。自分でもよく分からない。別に彼女がどこへ行こうが自分には、関係がない。そうだ。

例え騎士団の一員であろうと、彼女をずっとそばに置く理由はないのだから。

すると彼女は、不思議そうに首を傾げると、微笑んで言った。

｢…デスパーさまではなく、私がそばにいたいのはあなたです｣
｢…、｣

どうして、いとも簡単に。

彼女は、自分が一番欲しい言葉をくれてしまうのだろう。

分かっている。

本当は、知りたかった。彼女がここにいる理由を。確かめたかった。

なんと臆病な王だ。

心のどこかで、期待していたのかも知れない。

それでも、気の利いた言葉を返せるわけでもなく、ぶっきらぼうにデスハーは言った。
｢…ならば、騎士団に恥じぬ騎士であれ。このデスハーの元に仕えるのなら、きちんと証明してみろ｣
｢はいっ｣

真っ直ぐに自分を想い、慕う瞳が見上げる。
本当に、月明かりのように美しい。ガラス玉のような瞳は、いつも自分を捕らえて離さない。

ふい、とデスハーは視線を逸らした。

｢少し、歩くか｣

これ以上見ていては、今度こそ奪われてしまいそうだ。

｢はい｣

そう言って、彼女はとても嬉しそうに笑った。

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その笑顔は、月明かりのように。