検索窓
今日:1 hit、昨日:16 hit、合計:9,057 hit

【本編】冥府と花の騎士 19 ページ27

ここ最近、なぜだか視線を感じるのだ。いや、その正体は分かっているのだが…。普通に声をかけてくれればよいものを、なぜかその人物は一向にやってこない。

「で、デスパー様?」
「、あぁいえなんでも」
 自席に座り、王の事務仕事を押し付けられ、その業務をこなしている最中だった。やはり、外に…先ほどから扉の向こうでうろうろしている人物がいるのだ。
「…どなたか、いらっしゃいますね…。お邪魔であれば、下がるよう申し付けますが…」
 使用人がそう声をかける。
「いえ。私が行きましょう」
 デスパーは席を立ちあがると、そのまま部屋の入り口まで向かう。そして、ゆっくりとその扉を開けた。そこには、Aがいた。
「…私に、何か用ですか?随分前から、私の周りをうろうろしていましたね」
「あ、す、すみません…」
「一体何です?」
 デスパーは中腰になって彼女の目線に合わせる。
「デスパーさまは、その…人に教えるのがとてもお上手だと、聞いて…」
「はぁ」
 少し、恥ずかし気に目を伏せる彼女。長い睫毛が震えていた。しかし、初めて彼女と会った時は、その残酷な姿に息をのんだものだが。こうして元気になって、小奇麗にしている様を見ると、その美しさにようやく気付く。

 兄者が、この子を…ねぇ。

 全く、生きていると面白いことに直面するものだ。
「それで、一体?」
「私は…強くなりたいのです」
「あなたが、強く?」
「はいっ。私も、闘えるような、強さを!そして、誰かを守れるような、そんな力が…」
「あなたが守る?」
「はい」
 そりゃまた、面白いことを。
「…少し、ここに」
 コクン、と彼女は頷く。デスパーは部屋へ戻ると、書類を整えていた使用人に告げた。
「で、デスパーさま…」
「ちょっと。私、しばらく席を外しますので」
「えぇっ!?で、ではこちらは…」
 こちらは、と示された机の上には大量の書類。デスパーはうっ、と顔をしかめる。こんなモノに朝から晩まで延々とハンコを押し続けるならば、Aといた方が数倍楽しいはずだ。
「それは…。別に私でなくともできる仕事です。兄者も心配性なんですよ。それに元来、こちらは王である兄者が見るべきもの。二度手間なんです。いちいち私が確認してから、兄者に渡さなくてはならないなんて。あ、別にさぼりたいとかそういうわけではありませんよ」

 いや、本当はもうしたくないのが本音だ。

「元々、城務めなんて私には向いていないんですよ」
「し、しかし…」

【本編】冥府と花の騎士 20→←【本編】冥府と花の騎士 18



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (17 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
18人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:アユミ | 作成日時:2022年5月2日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。