冥府と花の騎士 (ページ26)

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【本編】冥府と花の騎士１８ページ26

オレがそう言うと、彼女の目からは涙がぽたりと一筋落ちた。それが地面に落ちて小さく花を咲かせたことを確認した時、華奢な腕が、首元に飛びついていた。

　何度も、傷つけられたのに。それでも、彼女はその腕で人を抱くのだ。ありがとう、とオレに呟いて。
「生きて…良かった…」

　小さなかすれ声が、そう呟いた。切実に、語るその言葉はもう生きることを諦めた少女のものではなかった。自分よりも、ずっと小さな身体を抱きしめる。
「あぁ、この先も…君は生きるんだ」
　それが例えどんなに険しい道のりであろうとしても。君は、臆することなく歩いていくのだろう。

　華奢な温もりをそっと降ろす。宝石のような涙を拭うと彼女は笑った。風で花びらの舞う中で、酷く大人びたその笑顔は、月夜に照らされた一凛の花のように美しかった。そうか、兄者はこの笑顔に、魅せられてしまったのかも知れない。儚さの中に併せ持つ、圧倒されるくらいのこの強い瞳に。

　あぁ全く。あの人は、厄介な少女を拾ってしまったものだ。

「あの、オウケンさま」
「なんだい？」
　辺りを見回したAは、不思議そうな顔でこう言った。
「ここは…？なぜ、私をここに…」
　あぁ、とオレは少し頬を掻きながら答える。
「その…町に連れ出してやれ、と兄者に言われたんだが…女の子の喜ぶものってこんなことくらいしか、思いつかなくて」
　オレが照れながらそう言うと、彼女は少しだけ目を見開く。
「…だから一つ、はなむけを贈らせてくれ」
　そばに生えていた、一凛の白い花を手に取った。
「君の新たなる人生が、幸福なものであるよう」

　彼女はそれを小さな手で受け取る。そして、それは年相応の10代の少女のまま。とても可愛く笑ったのだ。
　