【本編】冥府と花の騎士 １７ ページ23
町だ…。久しぶりの…。いや、それにしたって…なんだか雰囲気が違うような…。
「見ろ、オウケン様だ」
「オウケン様…」
少しずつ商店や家々が見え始め、気付いた人々が声を上げる。
「オウケン様だ！」
あぁ、やっぱり。違う…。以前はもっと、殺伐としていたような。こんな、温かな風景だったたろうか。もっと暗くて、人々はいつも何かに怯え、疑い、町ではいつも争いごとが絶えなかった気がする。
それがどうだろう。小さな子を連れた仲睦まじい親子の姿、お年寄りに手を貸す若い青年、かけっこをする子どもたち。こんな景色を見たことがあっただろうか。それに、よく見ると様々な種族の人たちがいる。人間だけでは、ない。
「この数か月で…国は随分変わった。全て新しい王、デスハー王の力だ」
「デスハーさまの…」
「すごいだろう？あの人は」
まるで自分のことであるかのように、オウケンさまは嬉しそうに言った。
「兄者なら…きっと。オレは、ずっと信じてた」
なんて、真っ直ぐに前を見るんだろうか。今も、オウケンさまの瞳にはデスハーさまの姿が映っている。勇気を出して己の父に立ち向かい、国を変えようと奇跡を起こした偉大な兄の姿が。
「オレは、誓ったんだ。この先、何があっても、あの方についていくと。どんな時も、あの方を肯定していこうと。それが、弟として生まれたオレの使命だ」
町を見つめるオウケンさまの瞳は光に満ちていた。私もまた、変わり始めているこの国を見つめた。
「…君の話してくれたこと、兄者から聞いたよ」
町から少し外れた森で、オウケンさまは馬を止めた。気付けば、一面には花畑が広がっている。オウケンさまは馬から降りると、そのまま私を抱えて、そっと地面に降ろしてくれた。ふわりと、風が吹いて花の香りがする。
「ありがとう、A。きっと、君の言葉で兄者は救われたんじゃないかと思うんだ。ありがとう、だなんて言っていいのかは分からないが…」
オウケンさまは、その長い睫毛で伏し目がちにそう言う。私は、首を横に振った。
「オレも、同じだ。君には、生きていてほしい」
黒曜石のような、きれいな瞳が私を見つめた。こんなに優しい人が、この国の騎士団の団長だなんて。そうか。優しさも、強さも。全て持っていらっしゃるのだ。この方々は。
いつしかその優しさが、あだとなることがないよう私は切に祈った。
「兄者も、デスパー兄さんも、皆同じだ。良かった。君が生きていてくれて。本当に」
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作者名：アユミ | 作成日時：2022年5月2日 22時
