冥府と花の騎士 (ページ20)

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【本編】冥府と花の騎士１４ページ20

「大した根性だ。ただ能力を持て余す、非力な女ではなかったようだな」

　デスハーは続ける。

「…ならば、見せてみろ。お前がこの先、どう生きていくのか。私に見せてみろ」

　その瞳で、一体何を見る。お前の目に、この冥府はどう映る？

「はいっ」

　デスハーはふっと笑う。罪滅ぼしのために、手を差し伸べた娘にこんなに圧倒されるとは。面白いことがあるものだ。

　そうか。あんな目に遇っても…それでも尚、お前は自分を見失わないと言うのか。この国を、想うのか。

　あっぱれ、だな。

　デスハーは小さく笑うと、王笏をAに向ける。そしてそのまま、彼女の頬を突いてみせた。
「…はっ？あの…？いふぁ」
　王笏で顔を小突くりまわす。頭にハテナを浮かべ、されるがままの彼女に、デスハーは笑った。
「ウヒャヒャヒャ、愉快愉快」
「いだっ、いてて、な、急に何を！」
「面白い娘だこと。随分と大きく出られたものだ。この国のために涙を流したい、などと言うとはなァ」
「…そ、それは…」
「が、その心意気は、嫌いじゃないぞぃ」
　ヒヒ、とデスハーは笑った。

　こ、この人は…。なんて！人が勇気を出して言った一言を！

　頬を赤くしわなわなと震えるAを、デスハーは指をさしてさらに笑い出した。

「おいおい、まるで魔神のように顔が真っ赤だぞ！」
　ぶわひゃひゃひゃ、と豪快に笑うデスハー。くう、とAは拳を握りしめる。

　前言撤回だ。ちょっとでもカッコいい王さまだなんて思った私がアホだったわ。

「わ、私は…！ただ！」
「おいA」
　突かれながら、ふいに呼ばれた名にAはハッとする。
「強くあれ」

　低い、地鳴りのような声が、そう言った。言われなくとも…そのつもりだ。そうでなきゃ、あなたの隣に、立つことはできないだろうから。

　この、王の隣には。

「はァー。さて、お前への用件はこれで以上だ。私はもう行く」
「…え、はい…」
「お前もいつまでもここにいるわけではあるまい。この城を出たら、どう生きるのかを考えておくんだな」
「…はい」

　常夜のマントを翻し、王が去っていく。あぁ、そうか。私は、あの背中にずっと守られてきたんだな。あの大きな手に、救われてしまったのだ。その手は時に、王笏で私を小突いたりはするけども。

　デスハーさま…。どうか、私にその背を追わせてください。私は、必ず強くなって、あなたのおそばについてみせますから。