冥府と花の騎士 (ページ19)

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【本編】冥府と花の騎士１３ページ19

その瞳に宿る強い意志は、一体どこからくるものか。

「私は、そんなものに囚われるつもりはありません。自分を見失いたくないから！」

　この女…。

「人は、弱いです…。私も…。もし、デスハーさまが助けてくださらなかったら、私はこの国を憎んだまま醜く死んでいったことでしょう…」

　でも、とAは続ける。

「あなたに救われて、思い出しました…。人を想う心を、その深くにある慈しみを」

　Aは、囚われていたあの日々を思い出す。もう何も望まないと、何も感じないと。自分を閉じ込めたあの日を。

　大切なものなど、つくるものか、と誓ったあの日を。

　けれど、それは違った。デスハーがくれた一言が、あまりにも温かくて。そうだった。自分は、この力を恨んでなどいなかった。ただ、この力で人の役に立ちたかった。
　それを必要とする人たちのために。

　自分の境遇を呪うのではなく。誰かを憎むのではなく。

　そうでなくて、あなたのように。あなたが民を思い、国を守り王に立ち向かったように。

　私も、そうでありたいから。

「私は非力です…。こんな大層な能力を持てる器でもない…。だからこそ、この力に恥じぬ自分でありたい。いつか胸を張り、この力を国の、人のために使いたい。迷い苦しむ人に、手を差し伸べられるような…」

　Aは真っ直ぐにデスハーを見つめる。

「あなたのような」

　震える拳を握りしめ、真っ直ぐにこちらを見つめるAの姿に、デスハーは思わず魅入ってしまった。傷ついても、傷ついても、彼女は自分の足で何度も立ち上がる。力はなくとも、その強い勇姿で。

　自分の、ような。言われたその一言に、心が揺らぐ。今でも、あの戦争が正しかったかどうかは分からない。弟にも軽蔑され、それでも非道の末に王を討ち取った自分が。

　そんな自分を見上げるAの目は、尊敬と憧れの光で満ちていた。あの選択は間違っていなかった、と。自分の判断も。

　これまでの生き方も。そう彼女の瞳は、語っていた。

　弱ったな。たかがこんな小娘一人に、心を乱されようとは。随分と、弱くなってしまったものだ。

「…お前は、私の予想を超えていくな」

　はァー、と一つ溜息をつく。少しだけ不思議そうな顔するA。触れたら壊れてしまいそうなその身体で、一体どう立ち向かっていくつもりなのか。

　…面白い。その生き方、見せてもらおうか。