【本編】冥府と花の騎士 １２ ページ18
Aの言った、以外な一言にデスハーは驚いた。
この娘…。
つい最近まで、光を失った目をしていた娘とは思えない。そして、今彼女が言った一言。
先ほどの、彼女の涙。そして、『ありがとう』と言った顔。小鳥のことは、たまたま偶然見つけたからだ。錆びた籠に囚われた小鳥は、あの戦争時には既に息絶えていた。記録によると、彼女の涙は、同じ者にはその力が使えないのだそうで。もし、殺さずに、利用していただけなのだとしたら…。
まだ、この小さな命が助かる道はあるのかも知れないと思った。暗い部屋の中、この小鳥に、僅かな希望を抱いていたA。
この小鳥は、彼女の最後の希望なのだ。
会わせてやらなくては、と思った。煤を払い、血をふき取り小さな体にできた痛々しい傷を包帯で隠した。
自分が、Aにしてやれる、せめてもの償い。
なんと愛おしそうに触れるのだろう、と思った。彼女の涙に触れて、その命を吹き返した小鳥は挨拶をするかのように、その周りを飛び交った。そして、嬉しそうにそれに触れたA。大切に、大切にそっと触れた彼女の小さな手。
あぁ、良かった、とデスハーは思った。それは償いからくる思いではなく。ただ、Aを見て思ったのだ。
彼女が笑って良かった、と。
小鳥に別れを告げたAは、デスハーを見る。深いエメラルドの瞳の奥に、微かに揺れる灯が見えた。
この娘は、こんな顔をしていただろうか。
『私は、この国のためにこの涙を流したい』
それは、確固たる決心をした目だった。守られているだけだった少女の目に思えないほどの。真っ直ぐ自分を見る目は、美しく勇ましい。
まさか、圧倒されているのか。王であるこの自分が。こんな小娘に、魅せられる日が来るとは。
「…お前は、この冥府を、恨んではいないのか」
それでも、彼女に返した言葉は、それを肯定するものではなかった。その決心は、まことのものであろうか、と。奪われ、傷つけられ、苦しめられ、それでもお前はこの国を…。
「確かに、前王のしたことは、決して許されることではありません…。あの方が今、この世にいなくとも、私は許すことなど、できないでしょう…。しかし」
彼女は、その美しい瞳を閉じる。そして、もう一度開いた。
「そんな気持ちを抱いたところで、過去は変わりません…。人を、国を恨んでも、ただ虚しいだけです。それに、恨みや憎しみは、必ず心を蝕んでいくでしょう」
【本編】冥府と花の騎士 １３→←【本編】冥府と花の騎士 １１
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 18人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アユミ | 作成日時：2022年5月2日 22時
