冥府と花の騎士 (ページ15)

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【本編】冥府と花の騎士９ページ15

動けるようになって暫く。いつまでここに居ても良いのか、分からないまま静かにここでの時は過ぎていった。
　非道な前王、サトゥンさまが倒れ、新たなる王デスハーさまの作る冥府の時代が、足音を立てて歩き始めていた。

　暫く眠り、そして完全に身体が元に戻るまで国の情勢を何も知らなかった私は、この国がどう動き始めたのかを少しずつ知ることになる。

　あぁ、変わっていくんだな、と思った。それはきっと、よい方向へと。

　身体が回復してからは城内を歩き回ったり、遠くから騎士団の方々の激しい鍛錬を眺めていたりした。そして時折、王の風格をなびかせ歩くデスハーさまを見かける。圧倒的な存在感と空気、正しくそれは王さまだ。

　私は、あの方に命を助けていただいたのね。確かに、あんな目に逢ったのはお父上のせいではあるけれど、それを救ってくださったのもあの方なわけで。

　時折、何か思いつめるように遠くを見つめる視線が気になっていたりした。あの戦争で、一体どのような戦いがあったのか。長らく囚われて、救われた私は詳しくを知らない。

　噂によると、あの戦争はとても非道なものだったとかで。

　デスハー王を、まだ認めようとしない人たちがいるのも事実のようだった。

　ぼんやりと窓の外の景色を眺めていたとき。低く籠る、存在感のある声が響いた。
「…ここにいたか」
　はっとして振り返る。今しがた、考えていたその方がそこにいた。頭に、王冠を乗せた大きなその人物。
「で、デスハーさま…っ」
　その存在感に、圧倒されそうになる。思わず壁に背をつけたじろいだが、すぐに私は身体をぴしりと立たせた。そんな私を見て、デスハーさまは少しだけ眉を動かすと、一歩、私のそばから退いてみせた。

　そして、身体をかがませて見せる。

　…もしかして、私が今、怯えたように見えてしまったのだろうか。

　恐怖、ではなく、私が今抱いたのは畏怖の念。その王者の風格に、思わず倒れてしまいそうになるのは、私があまりにもちっぽけで頼りない存在だからだと思う。

　デスハーさまはそのままこう続ける。

「一つ、頼みたいことがある」
「…？」

　地の底から響くような、重圧感のある声はそう言った。けれど、そこに恐ろしさは微塵もなくて、どこか優し気な雰囲気を纏っている。努めてなるべく、威圧感のないように声をかけてくれているのだと思った。

　…不器用な方だなぁ。そう、思った。