【本編】冥府と花の騎士 ７ ページ13
少しずつ、Aが回復しつつあると聞き、デスハーは彼女の元へと足を運んだ。既にオウケンやデスパーとは顔を合わせている。
いきなりこんな顔の自分が行ったら、怖がらせるかも知れない。デスハーなりの、不器用な気遣いであった。
ましてやまだ本調子でないのだ。人懐こく爽やかな、末の弟オウケンが初めに行くのが良いと思ったのだ。
彼女のいる、扉の前で、立ち止まる。
まず…初めに、何と、声をかける？
前王のしたことは決して許されることではなく、詫びてどうにかなる問題ではない。
自分が今ここで何を言っても彼女の傷が癒えることはないし、奪った時間も取り戻せるわけではない。
この冥府は、変わらなければいけない。いや、変えなければ。これはその懺悔の一つなのかも知れない。過去の罪に、向き合う時が来たのだ。
王であるならば、国に。そして民に。指し示していかなければならない。
もう、殺戮と苦しみの連鎖は終わりだ。ここで自分が、新たなる道を切り開かなければ。
王であるならば。
部屋に入れば、少し顔色の良くなった彼女がいた。こちらの気配に気づくと、枕に頭を埋めたままゆっくりとその顔を振り返らせる。闇に沈んだようなその瞳に、真っ直ぐ目を向けることができなかった。
あれだけの苦しみを味わったのだ。光なんぞ消えてしまう。
身体の傷は癒えても、彼女自身が生きることを拒否しているならば意味がない。肉体が元に戻っても、彼女が生きる希望を見失ってはただの屍になってしまう。
こんなこと…言ってどうにかなるものでもないが。許せ、だなんて言えないが。
「すまなかった…」
やっと絞り出せた第一声は、それであった。
「あなたが…謝る必要は、ありません…」
彼女は、小さく掠れた声でそう言った。
いや…これもまた、自分の罪だ。あの時、あの戦争で自分がしたことと、父の非道には何ら変わりはないのだから。
これ以外に、伝えるほかなかった。許してくれ、とは言えない。それでも、助けたかった。彼女を助けることで、自分は楽になろうとしているのかも知れない。
今も、この手に染まる返り血を鮮明に覚えている。
私の罪だ、とデスハーは呟いた。許しを請うとは思っていない。それでも、彼女に伝えたかった。ただ、一言。今、目の前で光を失っている少女に。
愚かな願いであることは分かっていても、望まずにはいられない。ただ、一言。
「死ぬな…」
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作者名：アユミ | 作成日時：2022年5月2日 22時
