黒い少年と星の街 ページ1
「走れ!」
くすんだ空の向こうに、誰かの声が響いた。その合図と共に子供たちはいっせいに走り出す。
そして、その中のひとりの少年は、集団とは違った方向へ逃げ出した。鳴り響いたのは、銃声。ひとり、またひとりと誰かの倒れる音がする。
奴らが銃を持っていることは分かっていた。だが、それを知るのは自分ひとりだけ。
「先に裏切ったのは、そっちだからな」
物陰に身を潜めると、ほとぼりが収まるのを少年はじっと待った。
黒いスーツを着た男たちは、小さな死体に足を乗せる。
「ッチ…。ガキが舐めた真似しやがって」
「まだ息のある奴らは拾え!売り飛ばしゃあちったあ金になんだろ」
辺りがすっかり片付き、男たちが引き返していく。
「…よかった。まだ食べられるものがあった」
散らばった果物やパンを拾い上げる少年。返り血をボロボロのシャツの袖で拭うと、小さく微笑む。
「当分はこれで足りそうだな」
ボサボサに伸びきった漆黒の髪は、日に当たり反射してキラリと光る。
この地では、こんな風に誰かが死ぬのなんてよくあること。ましてや、子供の死体なんてそこかしこに転がっている。
息の根が止まったひとりの少女を少年は見つめる。
「…キミとは、仲間になれそうな気がしたんだけど」
しゃがみこんで懐を探り、僅かな金品を少女から取り出す。
「これももらっていくよ」
彼の名は、クロロ。先ほど走れ、と叫んだのもまた彼だ。
「でもやっぱり、ひとりの方が生きやすいかなあ」
クロロには、まだ仲間と呼べるものはいなかった。それもそのはず、彼はこの流星街の子供たちの中でも相当賢いようで、仲間を引き連れるよりも、ひとりでいる方が却って生きやすいのかも知れない。
しゃくり、と果実を口にする。
「…やっぱり、足りないや」
欲しい。何か、ひとつでも。食べ物も、くさるほど沢山に、毎日何を着たらいいかわからなくなるぐらい、大量の服も。
ただ、何かが欲しくて。
クロロは、ただそれだけだった。
「…こんなリンゴ一つじゃ足りない。カビの生えたパンももう、うんざりだなぁ。腹を満たすだけじゃ足りない」
何かが、欲しい。
満たされるような、何かが。
クロロがそう思った時だった。
「離して!」
声に気付き振り返れば、何やら1人の女とそれに群がる男たちが。
「…あの女」
この街にいるにしては、小綺麗な格好をしている。汚れひとつない洋服を身にまとって。
「ひとつ、試してみるかな」
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作者名:アユミ | 作成日時:2021年8月18日 19時