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そう思ったら希望が湧く。長年怪人と戦い続けてきたこの歴史に、終止符が打たれる。Z市は……いや、世界は……。
この女が救うかも知れない。
「へくしゅっ」
「……冷えたか?」
ジェノスの問いに、女は苦笑した。
「今朝から薄着だったものだから……」
瞬間、ずび、と彼女は鼻をすする。
「先生の部屋に鼻水を垂らしたら、貴様を塵にするからな」
「ジェノスさん、鼻ぐらい自分でかめますか、ら……」
いや、ないな。コイツが勇者なんて、有り得ない。オレ、ナニイッテンダ。
間抜けにも大量のティッシュを顔面にあてられる女を見て、勇者だなんだと考えてた自分がアホらしくなった。つーかオレのなんだけど。使いすぎじゃね?
「本当に、あんた異世界から来たのか……?」
「た、ぶん…?」
オレの問いに、彼女もよく分からなそうに首を傾げる。
「この時世に怪人すら見たことがないと言いました。そんな世界、どこにもありゃしない。別の世界から来た、と考えるしか……ないかと」
ジェノスの言い分に、まじか…、とオレも言わざるを得ない。
「そんなことって、実際に起きるんだな」
「しかし……オレはあまりコイツを信用していません」
「ジェノスさん……」
「別の世界から来ただなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。怪人を、見たことが、ないだと……?」
「、はい……」
「この女は、自分の世界にはヒーローなんてものすら、存在しないと言うんです。漫画やアニメの話みたいだ、と……。馬鹿げてるっ……!」
久しぶりに、ジェノスが感情を顕にした姿を見た。イケメンヒーローでありながら、無表情が何よりの特徴である、あのジェノスが。こんなに感情を剥き出しにしてるのは。
「怪人が、いない世界…?ふざけるなっっ!なら、なぜオレの家族は、死ななければならなかった!?」
ガシッ、とジェノスは女の両肩を揺らした。
「本当に貴様がいた世界が、あるのなら!なぜ……」
「ジェノス」
オレは、ジェノスの腕を掴む。
「……コイツに当たったって、どうにもなりゃしない。……落ち着け」
ッハ、としたようにジェノスが我に返る。
「先生……」
「怒りの矛先が、間違ってる」
「すみません……」
っぐ、と拳を握りしめたジェノスは、立ち上がる。
「……席を、外します…。すみませんでした……」
そう言い残し、ジェノスは部屋を出た。
「……、すまんな」
「あ、いえ……」
彼女の気の毒そうな視線が、玄関に向けられていた。
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作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時