検索窓
今日:4 hit、昨日:7 hit、合計:6,536 hit

9 ページ10

そう思ったら希望が湧く。長年怪人と戦い続けてきたこの歴史に、終止符が打たれる。Z市は……いや、世界は……。

 この女が救うかも知れない。

「へくしゅっ」
「……冷えたか?」
 ジェノスの問いに、女は苦笑した。
「今朝から薄着だったものだから……」
 瞬間、ずび、と彼女は鼻をすする。
「先生の部屋に鼻水を垂らしたら、貴様を塵にするからな」
「ジェノスさん、鼻ぐらい自分でかめますか、ら……」

 いや、ないな。コイツが勇者なんて、有り得ない。オレ、ナニイッテンダ。

 間抜けにも大量のティッシュを顔面にあてられる女を見て、勇者だなんだと考えてた自分がアホらしくなった。つーかオレのなんだけど。使いすぎじゃね?

「本当に、あんた異世界から来たのか……?」
「た、ぶん…?」
 オレの問いに、彼女もよく分からなそうに首を傾げる。
「この時世に怪人すら見たことがないと言いました。そんな世界、どこにもありゃしない。別の世界から来た、と考えるしか……ないかと」
 ジェノスの言い分に、まじか…、とオレも言わざるを得ない。
「そんなことって、実際に起きるんだな」
「しかし……オレはあまりコイツを信用していません」
「ジェノスさん……」
「別の世界から来ただなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。怪人を、見たことが、ないだと……?」
「、はい……」
「この女は、自分の世界にはヒーローなんてものすら、存在しないと言うんです。漫画やアニメの話みたいだ、と……。馬鹿げてるっ……!」

 久しぶりに、ジェノスが感情を顕にした姿を見た。イケメンヒーローでありながら、無表情が何よりの特徴である、あのジェノスが。こんなに感情を剥き出しにしてるのは。

「怪人が、いない世界…?ふざけるなっっ!なら、なぜオレの家族は、死ななければならなかった!?」

 ガシッ、とジェノスは女の両肩を揺らした。
「本当に貴様がいた世界が、あるのなら!なぜ……」
「ジェノス」
 オレは、ジェノスの腕を掴む。
「……コイツに当たったって、どうにもなりゃしない。……落ち着け」
 ッハ、としたようにジェノスが我に返る。
「先生……」
「怒りの矛先が、間違ってる」
「すみません……」
 っぐ、と拳を握りしめたジェノスは、立ち上がる。
「……席を、外します…。すみませんでした……」
 そう言い残し、ジェノスは部屋を出た。

「……、すまんな」
「あ、いえ……」
 彼女の気の毒そうな視線が、玄関に向けられていた。

10→←8



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.3/10 (12 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
14人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。