検索窓
今日:10 hit、昨日:7 hit、合計:6,542 hit

8 ページ9

「すまん……」
 聞こえていたのかなんなのか、途端にむすっとした表情になった女に、オレが咄嗟に言えた一言はこれだった。彼女も、苦笑しつつ、いいえと答えた。

 まあそんなことはどうでもいいとして。
「本当に、ここがどこだか知らないって、お前記憶喪失か何かじゃねえのか?」
「記憶喪失……」
 彼女は顎に指をあて考えた。そんな横顔を見ていたら、割りと大人びた表情をしていたので、学生と決めつけるにはやはり失礼だったんじゃないかと思えた。うん、よく見たら普通に成人した女だな。

「最後に覚えてることとか、心当たりは?」
「最後に覚えてる、こと……。やっぱり、コンビニを出て世界が変わったとしか……」
「世界が変わった?」
 オレはなんとなくこの状況に退屈してきて、というかこういうよく分からない状況に慣れてはいないので、徐にリモコンでテレビをつけた。もしかしたら、彼女について何か突拍子もないニュースがあるんじゃ、と思ったからだった。少しずつ自分のことを語り出す彼女の話を、右から左へ聞き流しながら、至って平和な世間のニュースを垂れ流す情報番組をぼんやりと見つめた。

『可愛いウチの子特集!今夜は猫が勢揃い!』

 ついさっきも怪人が街を襲ったというのに、この国はやはり平和ボケしているようだった。
「……ですけど…。って、サイタマさん、聞いていましたか?」
「先生。この女はウソを上手くつけるほど利口そうには見えません。今までの話だったら恐らく…」
「ジェノスさん、私のこと嫌いなんですか?」

 次のジェノスの一言で、オレの意識はテレビから彼女へと向かった。

「異世界から来たか、と」
「っっな、い、異世界!?」
 面白そうなワードに思わずオレは反応する。
「異世界、ですか…?」
 彼女は不思議そうに首を傾げる。
「昔、クセーノ博士からこんな話を聞いたことがあります。この次元には、様々な似て非なる世界が存在し、ごく希にその世界がリンクすることがある、と……」
「次元、世界…?リンク…?」
 聞きなれないワードにオレの小さな脳ミソはこんがらがる。でも、よく漫画とかであるよな。なんか事故とかで、別の世界へ行っちゃって、すげえ強い伝説の勇者になって世界を救う……。

「あんた、もしかして、勇者?」
「ゆ、……え?」
 ナニイッテンダコイツみたいな表情を二人から向けられるが、オレは至って真剣だ。

 もしかしたら、こんな世界の為に、神様がよこした勇者かも知れないだろ?

9→←7



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.3/10 (12 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
14人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。