5 ページ6
「失礼しました先生」
「おい待て違う誤解だ行くな」
オレは帰ってきたジェノスの腕を掴みその動きを静止させる。当のジェノスはこちらを見向きもせず、早々にこの場を帰りたそうな顔をしている。
「見ず知らずの他人。名前も知らないから」
今の一言でどうやら更なる勘違いをされたらしく、ジェノスの表情はより一層険しくなった。
「先生は、見ず知らずの女性とも……」
「いやだから違うって」
「オレは先生の趣味や嗜好に口を出せる身分ではありません。ですので何も言いません」
「だーかーらー！ 違うって言ってるだろ。気を失ったんだよ急に。放置しておくわけにもいかないし、街も怪人に襲われたばかりでパニクってるし救急車も呼べないし」
なるほど、とジェノスはそこに正座する。
「それでこの女を拾ってきたわけですね」
「やめろその言い方。犬かコイツは」
ジェノスはオレの顔をじっと見て、今度は傍らで眠る彼女の顔を見つめる。とりあえずと薄い煎餅布団の上にそっと寝かせてはいるわけだが、一向にコイツは目を覚まさない。
「……まだ子どもじゃありませんか。先生、これでは人助けどころか、誘拐だと疑われるんじゃ……」
「あんまりオレ、世間からの評価ないもんな。あ、でもお前が拾ったってことにすれば警察のお世話にはならなくてすむかも」
「早いとこ目を覚ましてもらって家族に連絡を入れましょう」
「だな」
そうなのだ。身内に連絡を入れようにも、コイツは身分を証明するものを一切持っていなかった。ビニール袋には名の知れた菓子等が入っているだけ。小銭入れにはその名の通り小銭しか入っておらず保険証や免許証なんかも見当たらない。
「持ち物といい、ちょっとコンビニ寄るかみてえなスタイルだな……」
「彼女が購入した袋のもの、このよれよれのジャージ。恐らくそうであるかと」
ジェノスはまるで探偵のように言ってのける。うん、どう見てもそうだよね。
「しかも履いてた靴ってあれ……便所サンダルだろ？ ほらよく居酒屋のトイレとかにあるヤツ」
「先生もたまに履いてますよね」
「え？ あぁ、まぁ……。オレは別にオトコだしヒーロー活動以外は年中こんな格好だし」
そんなどうでもいい話をしていた時だった。ソイツの目が覚めたのは。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 14人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アユミ | 作成日時：2019年5月9日 2時
