検索窓
今日:1 hit、昨日:21 hit、合計:6,554 hit

4 ページ5

振り返ったサイタマさんの表情が止まる。
「え?」

 え、とサイタマさんはもう一度呟く。
「え、ちょ、なに!? え、ごめん!」
ごめん、とサイタマさんはもう一度言った。
「なんか、嫌なこと言っちまってたら謝るわ! すまん!」
私は、小さく首を降る。

 どうしてか。ひどく、安心してしまい、涙が溢れた。
「すまん、オレこういう時、なんて言ったらいいかわからなくて……。あぁー、えー…」
「ち、ちが、ちがくて…」
 ひたすらわりい、と謝るサイタマさん。ぐす、と泣きべそ掻く私に、少しわたわたしながらサイタマさんはしゃがみこむ。
「と、とりあえず泣き止め、な…」
「こ、こわ、くて……。もう、だめ、かと…」
 すると、ずい、とサイタマさんの顔が覗く。
「大丈夫だ…もう怖いものはどこにもいねえよ」

 大丈夫だ、と優しい声と共に、頭に何かが乗った。そのままぽんぽんと撫でられる。
「サイタマ…さ……」
「もう大丈夫だから、泣き止め」
 くしゃ、とまるで子供のようにあやされて私は頷く。暫くそんな時間が続いた後、ようやくサイタマさんは私に言った。

「ところであんた、立てるか?」
 あ、と私はぺたりと座り込んだ自分の身体を見回す。
「その…あんまり不安だったら、家まで送ってくわ。泣き跡すごいしな」
 私はぐし、と涙を拭く。あぁ、そうだ。ひとつ、大事なことを、忘れていた。
「その…」
「?」
相変わらずシンプルな顔したサイタマさんは、不思議そうな表情でこちらを見る。そう、家とか帰る場所とか、そういうことが…。

「わた…し…。その…家が…わから、なくて…」
「は?」

 コンビニを出たはずなのに。どうして…。どうしてこんな、知らない街に…?
「どうやって、ここに…きたかも、分からなくて」

 怪獣みたいな、化け物のような生き物。知らない人、街。帰る場所なんて…帰り方も、分からない。このまま…こんな危険な場所に、ひとり…?

「え、ちょ、おい…」

 ぐわんと大きな音が頭で響く。

 サイタマさんが何かを叫んでいる。けれど、その声が届くことはなく、私の意識は深い闇の底へ沈んでいった。

5→←3



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.3/10 (12 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
14人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。