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振り返ったサイタマさんの表情が止まる。
「え?」
え、とサイタマさんはもう一度呟く。
「え、ちょ、なに!? え、ごめん!」
ごめん、とサイタマさんはもう一度言った。
「なんか、嫌なこと言っちまってたら謝るわ! すまん!」
私は、小さく首を降る。
どうしてか。ひどく、安心してしまい、涙が溢れた。
「すまん、オレこういう時、なんて言ったらいいかわからなくて……。あぁー、えー…」
「ち、ちが、ちがくて…」
ひたすらわりい、と謝るサイタマさん。ぐす、と泣きべそ掻く私に、少しわたわたしながらサイタマさんはしゃがみこむ。
「と、とりあえず泣き止め、な…」
「こ、こわ、くて……。もう、だめ、かと…」
すると、ずい、とサイタマさんの顔が覗く。
「大丈夫だ…もう怖いものはどこにもいねえよ」
大丈夫だ、と優しい声と共に、頭に何かが乗った。そのままぽんぽんと撫でられる。
「サイタマ…さ……」
「もう大丈夫だから、泣き止め」
くしゃ、とまるで子供のようにあやされて私は頷く。暫くそんな時間が続いた後、ようやくサイタマさんは私に言った。
「ところであんた、立てるか?」
あ、と私はぺたりと座り込んだ自分の身体を見回す。
「その…あんまり不安だったら、家まで送ってくわ。泣き跡すごいしな」
私はぐし、と涙を拭く。あぁ、そうだ。ひとつ、大事なことを、忘れていた。
「その…」
「?」
相変わらずシンプルな顔したサイタマさんは、不思議そうな表情でこちらを見る。そう、家とか帰る場所とか、そういうことが…。
「わた…し…。その…家が…わから、なくて…」
「は?」
コンビニを出たはずなのに。どうして…。どうしてこんな、知らない街に…?
「どうやって、ここに…きたかも、分からなくて」
怪獣みたいな、化け物のような生き物。知らない人、街。帰る場所なんて…帰り方も、分からない。このまま…こんな危険な場所に、ひとり…?
「え、ちょ、おい…」
ぐわんと大きな音が頭で響く。
サイタマさんが何かを叫んでいる。けれど、その声が届くことはなく、私の意識は深い闇の底へ沈んでいった。
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作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時