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「おねえちゃん……」
「へ、はい!」
「ありがとう……」
 そ、そんな…。柔らかくて、小さな声がそう言った。私は何もしてないのに。バケモノをやっつけたわけでもないし…。

「マモルー!どこーー!?」
「!、おかあさん!」
 ぅわ、と思わず声を上げる。抱きしめていた腕はさらりと解かれ、男の子は駆け出す。遠く
で、お母さんらしき女性に、力一杯抱きしめられている男の子。

 よかった。……本当に、よかった。

「……」
「……」
 なんて幸せな場面も束の間、ぼうっと突っ立ってるサイタマさんと、ぺたんと座り込む私の、不思議な絵面が淡々と続く。

 なぜ……サイタマさんはずっとここにいるんだろう? よく分からないけれど、もう、行っていいんじゃなかろうか。それとも私に用が? いや、私たち初対面だし……え?

「え、あんたは行かないの」
「え?」
 ん、と顎で先程のお母さんと男の子を指すサイタマさん。いつの間にか、仲良さげな親子の影が二つ道に伸びていた。手を繋いでもらって嬉しそうな男の子の後ろ姿。

「え、いや知りませんし…」

 そういえば、さっき弟とかなんとか…。

「え、あんたたち、姉弟じゃなかったの?」
「はい…」
「なんだ、オレの勘違いか」
 てっきり姉弟かと思った、とサイタマさんは頭を掻く。
「にしてもあんた、すごいよな。知らない人間の為に命張れるって」
「そんなことは…」
 すごいのはきっと、サイタマさんの方じゃなかろうか。さっと現れて、私とあの子を助けてくれた(多分)。本当に、ヒーローみたいだ。

「あんなヤツ目の前にしたら、オレだってこええよ。昔のオレだったら、子供なんか放って逃げ出してたかもな。あんたは、立派だよ」
 サイタマさんの顔がこちらを振り向く。不思議だ。この人の言う一言一言、優しくて温かい。

「いえ、恐くなんかは…」

 恐かった。

「恐く、なんて…」

 死ぬかと。殺されるかと。恐くてたまらなくて。恐怖で、足がすくんで。

「でもま、もう大丈夫だ。暫くは怪人の騒動も静まるだろうし。何かあったら、ヒーローを呼べばいい」

 ヒーロー。

「あ。もっかい念を押して言うけど、オレ“ハゲマント”じゃなくて、サイタマだからな」
 そこんとこ、間違えないで、と彼は言った。さて、今日の晩飯なんにしよう、とサイタマさんは呟く。

「なあ、今日って何曜日だった…」

 
 
 

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作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時

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