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以前にも嗅いだことのある匂いだった。天日干ししたお布団みたいな匂い。おひさまの匂いって言えばいいのかな。

 あれ…? でも違うや。

 さっき嗅いだ匂いは違ってた。鉄の塊みたいな匂いと、濡れたアスファルトの香り。

 そういえば……。

「雨……」
「あ? 雨ならとっくに止んでるぞ。ようやく起きたか。オマエ1日に何回気を失ったら気が済むんだよ……」
 つるつるのゆで卵が振り返って何か喋っている。……あれ!?

「サイタマさん!?」
「ようやく気を取り戻したか」

 どうやら私はサイタマさんにおんぶされてしまっているらしい。あれ、さっきまで私何してた?

 雨……? 雨の匂い……。

「私、またサイタマさんに……」
 いや、ちがう……? 待って、記憶を思い出せ。私は……。確かジェノスさんを追って……。
「ジェノスさん、ジェノスさんは!?」
「買い出し。夕方のセール行ってる」
「かいっ、セール!?」

「土曜の夕方は、チラシの品がすぐに売り切れちまうからな……。第三土曜日はうちの(近くの)スーパーの特売日。肉に野菜にその他もろもろ切らしてるし、やっぱこういう時にまとめて買っとかな……って、なんだ!?暴れるな!」
「お、下ろして、ください!私、ジェノスさんに、謝らないと……」

 この世界のことは分からない。ここがどこなのかも。

「無神経なこと、言ってしまったのに……」

 夢を見ているだけなのかも知れない。知らないこの世界も、目の前でへんな怪物に人が殺されたのも、さっきへんな怪物に襲われたのも、何もかも全部……。

「夢だったとしても、このまま覚めたくないよっ、……!」

 私はまた、誰かに助けられたんだ。ジェノスさんが、あの時。助けてくれたんだ。
無神経なことを口走って、辛いことを思い出させて、あんなに嫌われてしまって。それでも、助けてくれたよ。
 ヒーローだよ。きっと。


「先生の手を煩わせるな」

 聞き慣れた声がして、ハッと前を向いた。相変わらず端正な顔をしたジェノスさんが、柄に合わない可愛らしいエプロンを巻いて、主婦の如く大量のスーパーのレジ袋を持ってそこに立っていた。

「おーす、ただいまジェノス」
「オレも今帰りました」
「ジェノスさんっ、」
「ちょ、」

 サイタマさんの背中から降りて、すぐに彼のそばへ駆け寄る。
「その……」
 少し顔をしかめたジェノスさんが首を傾げた。

「ありがとう……」

「お前でなくとも、そうしていた。ヒーローだからな」

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作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時

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