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掴まれた彼女の身体は恐怖に震えていた。
「……かわいいお嬢さんだねェ。今すぐボクがイイコイイコしてあげよう」
「っひ、……!」

 うにょうにょと気味の悪い触覚が彼女の肩や腕を這う。
「やっ……」
「……わ、悪くないね、キミ……」
 ふーふー、と怪人の荒い呼吸が彼女の首に当たる。
「この姿で……女の子を、あぁして、こんなことして…ハァハァ……最高だよォ……」

 どうやら度を越えた変態のようだった。
「よろこべ……キミは、ボクの……童貞卒業の、第一人者だよォ……ハァハァ……」
「ひ……」

 ジェノスは一つ、はぁ、とため息をつくと怪人の気味悪い顔を見上げる。
「口を閉じろ。臭い」
「アァ?なんだ、オメエ……」
 S級ヒーローといえど、自分の知名度はさほど高くないらしい。ならば、この無知な変態に身をもって教えてやらねばならない。
「もう一度言う。忠告は一度きりだ。その女を離せ」
「バーーーカ。嫌なこった」

 ゲヒャヒャ、とまた臭い息を撒き散らし笑う怪人にジェノスは最後のため息をついた。忠告はしたはずだ。ならば、殺ってしまったって構わないだろう。

「ジェノス……さん……」
 小さく、声が聞こえた。

「助けて……」

 また、瞳から涙が溢れていた。小さく、消えてしまいそうな、それでも懸命に絞り出した声。


 ___助けて。


 あぁそうだ。ヒーローは、その言葉の為にあったはずだ。情けないとか、弱いとか、プライド等考える暇はないのだ。その手を求める人たちに、差し出さなければならない。

 浮かんで消えた、最愛の家族の笑顔。

 あの日、守れなかった分を。


 先生ならば、きっと一滴の涙も落とさせないうちに、きっと……。今、目の前でコイツが二度目の涙を落とすことなどなかったはずだ。自分は無力、か。そんな弱腰でどうする。

 ジェノスは腕を上げ、怪人に向ける。

「忠告はしたはずだ。貴様を排除する」


 怪人のいない世界。

 そんな世界、あるはずがない、か……。

いや、違う。作るしかないんだ。オレがこの手で。
 


 

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作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時

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