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「……」
サイタマのアパートを出てから、ふらりとジェノスは街を宛もなく歩いていた。頭を埋めるのは、先ほどあの娘に吐き捨てた言葉たち。
……オレは…何を感情的に。
出所不明の家出少女に当たり、恩師であるサイタマの前で醜態を晒してしまった。情けがない。冷静で無表情__それがサイボーグになってからのオレであったはずだ。
あのまま得体の知れない娘とサイタマを二人きりにしてしまって、いささか不安が募ったが、それ以上に赤の他人にああまでも当たってしまった自分が信じられず、そして合わす顔も思い浮かばず、ただただ同じ路をぐるぐるとジェノスは回っていた。
あの女は、本当に異世界から来てしまったというのだろうか。とても嘘をついているようには思えなかった。恐らく、彼女が本当は怪人で人のフリをしていた、という不安も杞憂にすぎない。だとしたら彼女にこれから行く宛があるというのだろうか。それに……。
「……馬鹿馬鹿しい、何を考えているんだ…」
出会って間もない、見ず知らずの女の心配を? 鉄の無表情の自分が?
笑わせる。
オレは、先生がいればいい。あの人のように強くなれれば、それでいい。そしていつか、家族を奪ったあのサイボーグに復讐を…。
オレが、この手で……。
握り締めた拳に、ポタリと水滴が落ちた。途端に、辺りに立ち込めていた湿った匂いが鼻をくすぐる。
「雨か……」
サイタマの家に帰るわけにはいかない。今頃きっと、あの娘と異世界について談笑しているに違いないだろう。
この鉄の塊に、雨が降り注ぐ等、造作もないことだ。降りしきる雨の中、ジェノスはふらりと公園に立ち寄っていた。濡れたベンチに腰を置き、思い出すのは、遠い昔の家族との思い出。
博士……。オレは一体、どこまで強くなれるのでしょうか…?
このままでいいのだろうか。いや、そんなはずがない。けど、あの人といると。先生といると、自分はとてつもなく無力に思えてしまい、悔しくなる。焦る。恐ろしくなる。こんな自分に、何かを守ることができるのか、と。
復讐等、何の意味もなさないことも。
その時、ふと雨が上がった。ジェノスは驚いて顔を上げたが、それがただの自分の勘違いであったことに気付いた。
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作者名:アユミ | 作成日時:2019年5月9日 2時