今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:29,861 hit
小｜中｜大
そんな中。
後方からやって来た人影に、私は振り返る事なく訪ねた。
「なに？ 臣」
「……十座は、那智じゃないぞ」
「分かってるよ」
何もかもを察したような臣の声に、私は小さく息をつく。
そんな事、言われなくとも分かってる。
「分かってるから」
「なら、良いけどな」
あまり納得はしていなさそうな臣の声色。
振り返った先に居た彼も、困ったように眉を下げて此方を見遣っていた。
「俺はそろそろ帰るよ」
「そう。気を付けてね」
「ああ」
身を翻した臣は、小さく手を振りながら帰って行く。
……臣はいつもそうだ。触れて欲しくない部分に、敢えて触れる優しさを知っている。自分が何を言われようと、周りが上手く回ればそれで良いなんて考えをいつも根底に抱いている。
「余計なお世話だっての」
けれど、もう――彼の力は必要ない。彼のお陰で上手く回っていた歯車は、とっくの昔に欠け落ちて、誰とも噛みあう事なく止まっているのだから。
「……Aさん」
「あ、ゴメン。ソースね。お待たせ」
痺れを切らしたらしい十座に名を呼ばれ、私は慌てて彼の元へと戻った。
皿の上にトロリと零れる、艶やかなブルーベリーソース。まるで宝石箱を覗いているかのように目を輝かせる彼は、紛れもなく――、
「十座」
けれど、……きっと、多分、駄目なのだ。もう。
どれだけ自分に言い聞かせようと、臣にどんな言葉を投げかけられようと――甘い甘いブルーベリーソースの味に目を瞬かせた彼ですら、私は求めてしまうのだから。
「ねぇ、十座」
「なんっすか」
自嘲染みた笑みを浮かべた私は、顔を上げた彼へと手を伸ばす。
「……っ」
触れ合った唇は、彼から声を奪った。
同時に、私が彼を見失った――そんな瞬間。
「……好きだよ」
那智。
＊ ページ10
そんな中。
後方からやって来た人影に、私は振り返る事なく訪ねた。
「なに？ 臣」
「……十座は、那智じゃないぞ」
「分かってるよ」
何もかもを察したような臣の声に、私は小さく息をつく。
そんな事、言われなくとも分かってる。
「分かってるから」
「なら、良いけどな」
あまり納得はしていなさそうな臣の声色。
振り返った先に居た彼も、困ったように眉を下げて此方を見遣っていた。
「俺はそろそろ帰るよ」
「そう。気を付けてね」
「ああ」
身を翻した臣は、小さく手を振りながら帰って行く。
……臣はいつもそうだ。触れて欲しくない部分に、敢えて触れる優しさを知っている。自分が何を言われようと、周りが上手く回ればそれで良いなんて考えをいつも根底に抱いている。
「余計なお世話だっての」
けれど、もう――彼の力は必要ない。彼のお陰で上手く回っていた歯車は、とっくの昔に欠け落ちて、誰とも噛みあう事なく止まっているのだから。
「……Aさん」
「あ、ゴメン。ソースね。お待たせ」
痺れを切らしたらしい十座に名を呼ばれ、私は慌てて彼の元へと戻った。
皿の上にトロリと零れる、艶やかなブルーベリーソース。まるで宝石箱を覗いているかのように目を輝かせる彼は、紛れもなく――、
「十座」
けれど、……きっと、多分、駄目なのだ。もう。
どれだけ自分に言い聞かせようと、臣にどんな言葉を投げかけられようと――甘い甘いブルーベリーソースの味に目を瞬かせた彼ですら、私は求めてしまうのだから。
「ねぇ、十座」
「なんっすか」
自嘲染みた笑みを浮かべた私は、顔を上げた彼へと手を伸ばす。
「……っ」
触れ合った唇は、彼から声を奪った。
同時に、私が彼を見失った――そんな瞬間。
「……好きだよ」
那智。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 70人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちーずたると(プロフ) - 最後の台詞、テメェらがメテェらになっちゃってます…！折角良い作品なのに。更新お疲れ様でした。 (2018年1月20日 1時) (
レス) id: 16ae0bdd23 (このIDを非表示/違反報告)
黒ちん(プロフ) - コメ失礼します！めちゃくちゃドキドキしました！十座大好きなので本当に嬉しかったです！続き楽しみにしてますね！ (2018年1月14日 14時) (レス) id: 339ef6e82f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まるち | 作成日時：2018年1月7日 1時
