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「それにしても、十座から、Aと会ったって話を聞いた時は驚いたよ。元気そうで良かった」

 そう告げながら、臣はおもむろに十座の隣の席へと腰掛けた。
 一方の十座は、臣に小さく挨拶をした後、無言でケーキを食している。

 目の前に広がったのは、とても不思議な光景だった。
 臣と私と、那智と――あの頃のようで、違う空間。

 それこそ、『久しぶり』なんて言葉じゃ表しきれないほど、何もない空白の時間を経た後の邂逅だと言うのに、臣は平然と笑っていた。

 ただ、私の胸中にあるのは、何も色を帯びない大きな空白。ぽっかりと空いた穴を埋める術を見出す事が出来ず、私は臣に素っ気ない態度を取ってしまう。

「それで?」
「それで、って……。随分と冷たいな」
「……私に何か用があって来たんでしょ?」

 私がどれほど訝しげに臣を見遣っても、彼はニッコリと笑んだままだ。

「ああ。最近、夜食を作るようになってな。出来るだけ腹持ちの良さそうなスコーンを作って差し入れてるんだが、そればっかりになってしまうんだ。Aなら、何か他の」
「……あんた、いつからそんなに上手に嘘が付けるようになったの?」

 一瞬、ピタリと動きを止めた十座が視界の端に映った。
 けれど私は、未だ人の良さそうな笑みを浮かべたままの臣を軽く睨みつける。

「あはは……。やっぱり、Aにはかなわないな」

 観念したように、眉を下げて顎の傷を軽く掻く臣。
 彼がここに来た理由など、想像も容易い。

「ほら……、もうすぐ那智の命日だろ。せっかくだし、一緒に墓参りでも行かないかと思ってな」

 そう言って笑みを含めたまま告げる臣に、私はそこはかとない怒りを覚えた。

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ちーずたると(プロフ) - 最後の台詞、テメェらがメテェらになっちゃってます…!折角良い作品なのに。更新お疲れ様でした。 (2018年1月20日 1時) (レス) id: 16ae0bdd23 (このIDを非表示/違反報告)
黒ちん(プロフ) - コメ失礼します!めちゃくちゃドキドキしました!十座大好きなので本当に嬉しかったです!続き楽しみにしてますね! (2018年1月14日 14時) (レス) id: 339ef6e82f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まるち | 作成日時:2018年1月7日 1時

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