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「那智って人と間違えたから」

 喉元から、ヒュと嫌な呼気が零れる。
 気づかぬ間に震えていた指先を強く握りしめ、小さく深呼吸を一つ。

 彼は平然とフォークを手に取り、クリームに塗れたスコーンを口へと運んでいた。

「……那智のこと、知ってんの?」

 しっかりと彼を見据えて尋ねた時、大きな掌が食事を止める。

「よく、間違われる。……アンタも、臣さんの知り合いか?」
「臣、か……。懐かしい名前出してきたね」

 私が視線を下げると、彼は再び手を動かし始めた。
 だんだんと皿の上から無くなっていくジャムとクリーム。

 メインであるスコーンがやっと顔を出した時。
 そう言えば、臣も料理が上手だって言ってたな、なんて。懐古の念に駆られてしまう。

 『ヴォルフ』の頭をやっていた那智と臣。
 同時期に、別チームの頭として地元で暴れまわっていた私が、彼らと顔見知りにならない訳がない。『友人』『仲間』――それ以上の関係になった事だって、当然と言えば当然だろう。

 私がチームを抜けたのは、ヴォルフがまだ活発に活動していた頃だった。
 パティシエになりたいのだと正直に胸の内を明かし、後継者へ頭を譲って円満に引退した。
 そのおかげで、あの頃の仲間とは今でも連絡を取り合う仲である。

 ただ、臣は――

「臣は……、元気にしてんの?」
「……ああ。昨日のチーズケーキは美味かった」
「チーズケーキって……まさか、同業者?」

 いや、と。彼は小さく首を振った。
 その仕草に、頭の奥へ押し込んでいた記憶が揺れる。

「役者だ。俺と同じ劇団に所属してる」

 脳裏を過るのは、役者になりたい、と満面の笑みで告げる那智の姿だった。誰にも言うなよ、と慌てた様子を見るに、臣ですら知らされていなかったのではないかと思っていたのだけれど……。


 ――那智にとらわれ続けているのは、アイツも一緒……か。

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ちーずたると(プロフ) - 最後の台詞、テメェらがメテェらになっちゃってます…!折角良い作品なのに。更新お疲れ様でした。 (2018年1月20日 1時) (レス) id: 16ae0bdd23 (このIDを非表示/違反報告)
黒ちん(プロフ) - コメ失礼します!めちゃくちゃドキドキしました!十座大好きなので本当に嬉しかったです!続き楽しみにしてますね! (2018年1月14日 14時) (レス) id: 339ef6e82f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まるち | 作成日時:2018年1月7日 1時

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