41． ページ43
Side Ymmt
「祥彰ってさあ」
Aちゃんは僕の煙草を咥えて火を点け、そう徐に僕の方に向き直った。
綺麗な指に細く煙の立つそれを挟んで、少し首を傾げ僕を見つめる姿は見惚れるほどかっこよくて美しかった。
「シガーキスってしってる？」
「…なんとなく？」
唇に挟んでいた煙草を一度離してそう答えると、
Aちゃんはそっか、と微笑んで一歩こちらに歩み寄った。
あまりあいてなかった距離がさらに詰まる。
「え？」
「ほら」
Aちゃんに促されるがまま、
もう一度それを咥えると同じように煙草を咥えたAちゃんの顔が近づいてくる。
え、と身じろぐと肩に手が添えられて、煙草の先端が触れた。
「吸ってよ」
小さくささやかれた言葉に心臓がドキリと跳ねる。
やがて僕の咥えた煙草からも細く煙が立って、やっとAちゃんが離れた。
ほんの一瞬だったはずなのに、すごくすごく長く感じられた時間。
Aちゃんは、あのいたずらっ子のような可愛い笑顔で僕を見ている。
「びっくりした」
「ふふ、シガーキス」
「ずるいじゃん」
「いいじゃん」
くすりと笑ってまた煙を吐き出すAちゃんに今度は僕が距離を詰めた。
え、と固まるAちゃんに、照れくさくて思わずちょっと笑っちゃったんだけど
そのまま目を閉じて唇を重ねる。やわらかくて、少し熱を持ってて、少し苦い香り。
ゆっくりと離れるとまた視線が合う。
「…びっくりした」
「へへ、ふつーのキス」
「ずるいね」
「いいでしょ」
もう一度だけ小さくずるいよ、とつぶやいて、でもちょっと嬉しそうなAちゃんは
また夜の街に視線を戻して、薄く煙を揺らした。
たまらなく好きだと思った。
どこか儚さすら漂わせて煙草を持つ君が。
大人っぽくて余裕があって、でもたまにいたずら好きな子供のような君が。
真剣に、でも楽しそうに料理をして、珈琲を淹れる君が。
僕が美味しいといった瞬間に、安心したように顔を綻ばせる君が。
素直で、僕のワガママも全部受け入れてくれる君が。
僕は、とてもとても大好きだ。
もう本音を煙と一緒に夜に溶かす必要はない僕ら。
「Aちゃん」
「ん？」
「明日も会える？」
「会えるよ」
「祥彰」
「んー？」
「好き？」
「とっても」
いくらでも、思ってることを伝えようじゃないか。
紫煙に霞む君も
芳ばしい香りを纏う君も
君だから、大好きなんだ。
Fin.
煙草と珈琲と君
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 534人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます！私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…！次回もよければぜひよろしくお願いいたします！ (2020年6月15日 14時) (
レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます！私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします！ (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます！日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです！ぜひこれからもよろしくお願いします！ (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます！コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした！とってもとっても素敵でした…！！山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています！ (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして！完結おめでとうございます！陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております！ (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黄色い恐竜
| 作成日時：2020年5月21日 21時
