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Side You
フライパンの上のチキンライスを一口味見する。
…うん、美味しい。家で料理するのなんて久しぶりだった。料理するのは好きだけど、店で仕事としてずっと作ってたし、自分の食事も店の賄いで済ませることが多かった。
…まさか、こんなことになるなんて。
あまりにも自然に恋人に変わった彼を待つ間、久しぶりに全貌が見えるソファに体を預ける。彼氏が来るなら部屋の掃除しなくちゃ!とでもなるんだろうが、あまり家にはいないもんで片付けるのは放置してた洗濯物くらい。久しぶりに取り出したコーヒーポットとサーバーを磨いてみると使った痕跡がなさ過ぎてちょっと悲しくなった。これからはたくさん使おう。
『なんか買うものある?』
そろそろ最寄り駅につくだろう彼からの連絡。
んー、と少しだけ考える。
『コーヒーとなにか一緒に食べたかったら』
『わかったー!』
思わず笑みがこぼれた。かわいいな。幸せだな。好きだな。
こんなストレートに伝えたら、貴方はどんな顔するかな。
らしくないねって笑うかな、照れてくれるかな。
『Aちゃん嫌いなものないよね?!』
『ないよ』
買った後に思ったのかな、ちょっとの焦りがそのまま表れた文面にまた笑ってしまう。もうそろそろ帰ってくるんだろうな。すぐ焼けるように準備しようとソファから体を起こす。
卵を割って、生クリームと牛乳を入れて、少しだけ味をつけて。フライパンもあっためとこうかな。
…楽しいな。喜んでくれる顔を思ってこんなに楽しい料理、本当に久しぶりだ。
チャイムが鳴った。
誰か分かりきっているのでそのままドアを開けに行く。
「…おかえり」
「…ただいま」
実際に彼をこの距離で目の前にするのはいつぶりだろうか。ほぼ毎日声を聞いて話をしていたけれど、直接会うのはすこしぶりだし、お店以外で会うのは、あの店裏で一緒に煙草を吸っていた時以来じゃない?
思えば思うほど変な関係の辿り方をしたけれど、目の前でやさしく笑う彼は、間違いなく、私の好きな人で、私の恋人。
「ご飯、すぐ食べる?」
「食べる!お腹空いた!」
あまり広くはない部屋に招き入れる。
この部屋に私以外の人が入るのは初めてじゃない?
引っ越した時のエアコンの業者の人を入れたら二人目か。
「じゃあ卵焼いちゃうから適当に待ってて」
「え!みたい!」
「…まだぱかってしないよ?」
「Aちゃんが料理しているとこみたいの!」
…かわいい。
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黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時