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Side You
あの日から、外に出た時に部屋に電気がついていれば軽率に呼び出すようになってしまった。なんだか申し訳ないなと思いつつ、今日は早かったね、とか遅かったじゃん、とか待ってたかのように言われれば、私も嬉しくなってしまう。
以前の店裏でたまに会って一緒に煙草を吸うよりも格段に頻度はあがった。
「…もしもし?」
『はーい』
「おつかれさま、大丈夫?」
『うん、待ってた』
「すぐそういうこというじゃん」
『いいじゃん』
最初に一緒に吸った時は、少しだけぎこちなさがあったけれど、最近ではそれに火を点けて紫煙を吐き出すまでの動作が滑らかすぎて、この距離でも見入ってしまう。
「山本さんさ」
『んー?』
「煙草吸ってることオープンにしてんの?」
『会社で知ってる人は知ってるかなー。あとはAちゃんだけ』
「…わたしファンなんだよ、ばらすかもよ」
『まあ別に煙草くらいねえ、隠すもんでもないし』
あと僕はAちゃんがそういうことするような人じゃないって知ってます〜、ってくすくす笑ってそういうんだから、この人は人に対する警戒心甘すぎるんじゃないかとも思う。…そりゃ、貴方を困らせたくないから私も別にやらないけどさ。
Aちゃんだけ、と言われたら悪い気はしなかった。
100万人がチャンネル登録をしているような人気者の彼の秘密を知ってるみたいでちょっとした優越感さえ覚えてしまう。
『Aちゃんは今日何してたの。おやすみだったんでしょ』
昨日休みだと言ったのは確かにわたしだけど、なんだか知られてる感じが擽ったい。まるで彼氏みたいにそういうこと言ってくれるじゃん。
「髪、染めてきた」
『え!嘘!』
少し先のベランダから身を乗り出すのがわかる。
こんな夜にこの距離じゃわかんないでしょ、というとしぶしぶ体制を戻した。
「毛先傷んでたから切って、インナーにした。問題です、何色でしょう」
『え〜〜〜全然わかんない、金髪じゃないんでしょ?』
「うん、色いれたよ」
『…赤』
「外れ、紫でした」
『絶対わかんないじゃんそんなのー!』
電話越しでずるい!と悔しがる彼が可愛いと思った。
誰かとこんなくだらない話で笑えるのはいつぶりだろう。仕事ばかりの生活を始めてからそんなになかったなぁ。
「ありがとね」
『なに、急に』
「別に」
灰皿に煙草を押し付けて、新しいのを取り出す。
少し離れた彼も、二本目に火を点けたようだった。
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黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時