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Side Sgi
ただ、Aに喜んでほしかった。安心してほしかった。
いつかの風邪の時、俺の顔を見てほっとしたような笑顔が見れたらいいと思った。
一緒に買い物に行ったとき、麦チョコ好きなの、ってにこにこしてカゴにいれて
家で幸せそうに食べるAの顔が見れたらいいと思った。
してやったのになんであんな反応なんだ、なんて押しつけがましいことは言わない。
でも、見れると思ったAの笑顔じゃなくて、
あんな疲れ切ったような笑顔で、あんな無理した繕った笑顔で、
なにもないからと拒絶されたような気がして、俺もどうしたらいいかわからなくなった。
それゆえに
「なんもないならなんもないらしくして」
今思えばそれこそ拒絶だったんじゃないかと思う。
彼氏だから何でも言えるわけ、ないじゃんね。信頼しているのとすべて言うことは違うよな。
いい大人がなんて間違いをしたんだ、と一晩かけてたっぷり後悔に苛まれた。
俺はやっぱり、Aのことになるとちっとも余裕がない。
スマホの画面は、昨日俺が家に行く前に送った文面で止まっていた。
一日気にしていたけど、その画面が動くことはない。
夜。どうしようか迷って気が付けば一時間経っていた。
…このままもう一晩過ごすのは嫌だった。
意を決して通話ボタンを押す。聞きなれたはずの呼び出し音が永遠に続くような気がした。
『…もしもし』
いつまでも続く気がしたその音楽が止み、小さな声が聞こえた。
まず電話に出てもらえたことにほっとする。
「もしもし、…いま、平気?」
『…うん』
「ありがと。
何も言わなくていいから、聞いてくれる?…嫌になったら切っていいから」
何も返事はないけど、とりあえず聞いてくれるんだと解釈をして、一度息を吐く。
「…俺、昨日あんなこと言っちゃったけどさ、間違ってたなと思って。
なんもなくたってむしゃくしゃすることだってあるし、誰にも会いたくない日もあるし
なんかあってもそれを言いたくないときとか、うまく言葉にできないときとかあるよなって」
「頼ってほしかったの。なんだか普段と違うAが心配で、話聞きたいと思った。
…でもそれも押し付けでさ、Aにとってそれがいいことかどうかは違うもんね」
「ごめんね」
「Aが話したいと思ったら話してくれたらいいし、なんもないならそれでいいの。
なんもなくても、なんもないらしくしないでいいの。
俺とも、Aが会いたいって思ってくれたらまた会おう」
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とぉと - いや、みんなして可愛いかよ (2021年5月6日 20時) (レス) id: 81b7d60823 (このIDを非表示/違反報告)
Yuki(プロフ) - 時々繋がりが見えるところ楽しみに読ませていただいてます!体調の方快方に向かっているようでよかったです。更新していただくのとてもとても嬉しいですがどうか油断なさらずご自愛くださいね。返信は不要です。 (2020年6月25日 1時) (レス) id: a2999cd47b (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - Yukiさん» コメントありがとうございます!お気遣いもいただいて嬉しいです…のんびり更新していきますのでゆるくお付き合いいただければと思います。これからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 22時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
Yuki(プロフ) - いつも潤いをありがとうございます!ご体調の方大丈夫でしょうか?どうかご無理をなさらないでくださいね。気長に楽しみにお待ちしております。 (2020年6月15日 15時) (レス) id: a2999cd47b (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ゆうかさん» ありがとうございます!ぽちぽち更新していきますのでこれからもよろしくお願いします! (2020年6月8日 23時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 18時