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「Aちゃん？」
『え？あ、ごめんなさい、何ですか？』
「いや、急に黙っちゃうから。
何かあった？ココ、シワ寄ってっし」
綺麗な指が、そっとわたしの眉間を撫でた。
相変わらず、わたしに触れるその手は優しい。
あれから数か月経った今でも、黒尾さんが分からない。のらりくらりとした態度も、変に期待させる優しさも、わたしには分からない。
それでも、触れられる手が優しいだけで、わたしはどんどん深くはまっていく。
『ううん。ちょっとぼーっとしちゃった。
飲みすぎちゃいましたかね』
「そう？」
少しだけ探るような視線を向けてから、黒尾さんは離れていった。
黒尾さんと一緒にいるようになって半年。
黒尾さんのこういうところが、好きだった。それでいて時々、嫌いになる。
本当はもっと踏み込んでほしい。知ろうとしてほしい。わたしのことで、悩んでほしい。
でも、それで黒尾さんが離れていくことが怖い。
今みたいに会えなくなることが、何より怖い。
戻ってきた黒尾さんの手には、ペットボトルの水が握られていた。
「ほら、ちょっと飲め」
『あ、りがとうございます…』
「珍しいな」
心なしか、いつもより砕けた口調に心臓が跳ねる。
こんな時でさえ、簡単にときめいてしまう自分が悔しかった。悔しいけど、とても心地よかった。
お金、と財布を出そうとした手を、黒尾さんは無言で制した。
いつの間に呼んだのか、迎車の文字が光るタクシーがやってきて後部座席のドアが開いた。運転手さんの声に慌てて、挨拶もそこそこに乗り込んだ。
「じゃあ、また」
『……はい、また』
ドアを閉める直前。変わらず交わすその言葉に安心した。笑って手を振ると、黒尾さんも返してくれた。
なめらかに動き出した車内で、そっと目を閉じる。
手にしたペットボトルを額に当てると、冷たさが身体の奥にじんわりと伝わっていく。
彼氏彼女でもない。
友達でもない。
約束もしていない。
ただ、週末に偶然会うだけ。
〈 「二度あることは三度あるってことわざ、知ってます？」 〉
わたしはもう、この偶然を壊したくないと思ってしまっている。偶然の原因なんか、知りたくなかった。
知って、終わってしまうなら、知らないままでいい。
きっとわたしは、また来週も、あの言葉を信じて黒尾さんに会いに行く。
タクシーに揺られながら、遠ざかる意識の中で、黒尾さんの背中に手を伸ばした。
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nameless - 1話1話読み進めていく毎に高揚感が募っていくような作品でした！またいつか、続きを楽しみにしております (12月20日 10時) (
レス) @page42 id: e6c0ea655a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 水傘るんさん» 水傘るんさん！ありがとうございます！このシリーズに黒尾さんは必須！と思っていました！大人ですよね…！ありがとうございます頑張ります！！ (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 菜花さん» 菜花さん、ありがとうございます！彼らの大人時代はどんなのかなぁという妄想から始まった作品ですが、そう言っていただけて嬉しいです🍀💚今後もぜひよろしくお願いいたします！ (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
水傘るん(プロフ) - 面白すぎます........えっやばい。黒尾さぁん.....大人の男すぎますって....最高です....！！！無理されない程度に更新頑張ってください！！応援してます！！ (2023年3月26日 2時) (レス) @page27 id: e67109cbac (このIDを非表示/違反報告)
菜花 - めっちゃ大人って感じのハイキューの小説が読めるとは…！と感激しています！スッと内容が入りやすくて魅了されるような文章で尊敬します！なんか上からですみません！応援してます！ (2023年3月20日 3時) (レス) @page27 id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さな | 作成日時：2023年1月20日 20時
