16 ページ16
4月。入園と進級とで園全体がごたつく、忙しない時期。月中になり職員達もようやく慣れてきて、定時とは言わなくても早めに帰れる日が増えてきた。
とは言え、仕事終わりはどうしたって疲労が拭えない。いつかコヅケンについて熱く語っていた同期の男の子と、お互いを労うのも恒例になりつつあった。
「なぁ、今日これからご飯でも行かない？」
『あ、ごめん！
せっかくなんだけど、今日は予定があって…』
「あーそっか！予定あるなら仕方ないって」
『誘ってもらったのにごめんね。
みんなにも声かけて、日決めて今度行こう！』
「…おう、そうだな！」
にこやかに送り出してくれる彼にもう一度ごめんね、と声をかけてから更衣室に向かう。
もう3年一緒に働いている彼には申し訳ないけれど、今日だけは譲れない。
「Aさんってさ、結婚してるんだっけ？
金曜はいつもすぐ帰っちゃうよね」
「いや、してないっす。
彼氏もいないって言ってたんですけど、これって俺、遠回しに断られてますかね」
「でも土日シフトもいつも快く出てくれるし、本当に金曜に何かあるだけっぽいけど」
「金曜だけ…」
着替えている最中に更衣室の外から同期と先輩の会話が聞こえていたけれど、何事もないかのように挨拶をして、そのまま園を出た。
詳しく聞かれたところで、上手く答えられる自信がなかった。
園のお散歩でよく通る、いつかのイベントをやっていた広場まで来て、立ち並ぶ桜の木に思わず足を止めた。
今日はそういうイベントだったのか、あちらこちらに屋台が出ている。仕事帰りらしいスーツ姿の人も、ビールのコップを手に笑っていた。
今日が金曜じゃなければ、今すぐにでも屋台に飛びついてビールを飲むのに。
香ばしいソースの香りに心惹かれながら、お花見フェスティバルと書かれた幟に背を向けて再び歩き出した。
商店街を進み、いつも寄るスーパーも薬局も通り過ぎた先。
いつまで経ってもこの商店街に馴染む気のないような、小洒落た店構えのワインバルに真っ直ぐ向かった。
カラン、と綺麗な音を響かせて店内に入って、踏み慣れた床をパンプスを鳴らしながら進んだ。
相変わらず髭がダンディなマスターに会釈をしてから、その奥で、一人優雅にワイングラスを傾ける男性に近づいていく。
迷いなく彼の隣に腰かけると、そこでやっと、特徴的な、不均一な髪型がゆっくりと振り向いた。
「いらっしゃい。
また会ったね、オネーサン」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 630人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
nameless - 1話1話読み進めていく毎に高揚感が募っていくような作品でした！またいつか、続きを楽しみにしております (12月20日 10時) (
レス) @page42 id: e6c0ea655a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 水傘るんさん» 水傘るんさん！ありがとうございます！このシリーズに黒尾さんは必須！と思っていました！大人ですよね…！ありがとうございます頑張ります！！ (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 菜花さん» 菜花さん、ありがとうございます！彼らの大人時代はどんなのかなぁという妄想から始まった作品ですが、そう言っていただけて嬉しいです🍀💚今後もぜひよろしくお願いいたします！ (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
水傘るん(プロフ) - 面白すぎます........えっやばい。黒尾さぁん.....大人の男すぎますって....最高です....！！！無理されない程度に更新頑張ってください！！応援してます！！ (2023年3月26日 2時) (レス) @page27 id: e67109cbac (このIDを非表示/違反報告)
菜花 - めっちゃ大人って感じのハイキューの小説が読めるとは…！と感激しています！スッと内容が入りやすくて魅了されるような文章で尊敬します！なんか上からですみません！応援してます！ (2023年3月20日 3時) (レス) @page27 id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さな | 作成日時：2023年1月20日 20時
