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「これ、テーブルに置きっぱだった」
『あ、ありがとうございます、!』
ちょっと浮かれそうになった頭も、差し出されたハンドタオルを見てすぐに熱がひいた。
少女漫画みたいな、ドラマみたいなことは、現実ではそう起こらない。
それでも、差し出された手が大きいな、とか、指が綺麗だな、とか思ってしまった。
少し目線を上げれば、正面から見えたその顔が遠目で見てたよりもかっこいいな、とか。
綺麗な瞳とか、思ってたよりも整った顔立ちとか、近くで見るとちゃんと目が見えるくらいの長さの前髪とか。
いつの間にか、夢中になって。
まじまじと見すぎてた。
見すぎて、その薄くて形のいい唇が動くのも、あのー、と遠慮がちに発せられた声も、気づいていたのに、気づかなかった。
「…俺の顔に、何かついてる?」
『えっ』
彼の手が、わたしの肩を優しく叩いて。
そこでやっと、自分に言われているのだと気づいた。
我に返って状況を確認すれば、さっきよりもやけに近い場所にいるお兄さん。
夢中になりすぎて距離を詰めていたとか恥ずかしすぎる。
慌てて離れるわたしに、彼がニヤリ、と右の口角だけを器用に上げたことは、今でもよく覚えている。
「そんなに見つめちゃって…見惚れてた?」
そう言った彼は、あまりに妖艶だった。
そんな彼の後ろからは、何やら冷やかしの声が聞こえていた。彼が大きくて姿は見えなかったけど、おそらくさっき一緒にいた人達。
それに律儀に、冗談だっつの、と返す彼に、その冷静さに、どうしてか、ちょっと腹が立った。
腹が立って、言い返したくなった。
『間違ってないです』
「は?」
『見惚れてました』
「……はは、まっさか」
『…そう言ったら、引きますか?』
我ながら、なんてことを言ったんだと今でも思う。
それでも、そんなことを考えられないほど、この時のわたしは必死だった。
それほどまでに、彼は魅力的だった。
今まで見てきた、どんな人より、どんな男性より、素敵で、目を奪われた。
「高校生をからかうもんじゃないですよ、おじょーさん」
『っ、ちが…』
「文化祭、楽しんでね」
だから、悔しかった。
返ってきた言葉は、あまりに残酷で。
高校生と中学生。
些細なことだけど、とてつもなく大きな壁に阻まれたのだと思った。
苦しくて、苦くて、少しだけ甘い記憶。
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nameless - 1話1話読み進めていく毎に高揚感が募っていくような作品でした!またいつか、続きを楽しみにしております (12月20日 10時) (レス) @page42 id: e6c0ea655a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 水傘るんさん» 水傘るんさん!ありがとうございます!このシリーズに黒尾さんは必須!と思っていました!大人ですよね…!ありがとうございます頑張ります!! (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 菜花さん» 菜花さん、ありがとうございます!彼らの大人時代はどんなのかなぁという妄想から始まった作品ですが、そう言っていただけて嬉しいです🍀💚今後もぜひよろしくお願いいたします! (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
水傘るん(プロフ) - 面白すぎます........えっやばい。黒尾さぁん.....大人の男すぎますって....最高です....!!!無理されない程度に更新頑張ってください!!応援してます!! (2023年3月26日 2時) (レス) @page27 id: e67109cbac (このIDを非表示/違反報告)
菜花 - めっちゃ大人って感じのハイキューの小説が読めるとは…!と感激しています!スッと内容が入りやすくて魅了されるような文章で尊敬します!なんか上からですみません!応援してます! (2023年3月20日 3時) (レス) @page27 id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月20日 20時