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黒尾さんの案内で訪れたお店は、小洒落たワインバルだった。
「ここ、俺のオススメ」
『おお…おしゃれ、ですね』
「でしょ?」
商店街の並びには違和感を覚えるようなきらびやかな店構えと反対に、店内は静かで落ち着いていた。
髭がダンディなマスターが促してくれたカウンターも、店員や隣の客との距離感がしっかり保たれていて、とっても居心地がいい。
ワインは普段あまり飲まないから、という理由で黒尾さんに任せたら、白ワインをボトルで頼んでいることには気づいていた。気づいていたけれど、何も言わなかった。
軽く飲む、と言っていた黒尾さんが思い出されたけれど、それでもいいと思った。
今まで飲んだどのワインよりも飲みやすく、香り高いそれを、黒尾さんに注いでもらって、素直に頂いた。
「今更だけどさ、良かったの?
俺にホイホイついてきちゃって」
何となく顔が熱くなってきた頃だった。
様子を伺うような、探るような、そんな声にちょっとだけ気持ちがざわつく。
グラスに残っていたワインを飲む、その黒尾さんの喉元に、心臓がどくん、と跳ねた。
いつの間にか、ボトルは半分以上空いていた。
『誘ったのは黒尾さんじゃないですか』
口から出た言葉も、声も。
自分のものとは思えない、どこか拗ねたような、甘ったるいものだった。
とっさに顔を下げて隠したけれど、黒尾さんはあまり気にしていないのかからりとした笑い声が響いた。
「いやね、前の試合の時もそうだったけど、毎回こうも素直だと黒尾さん心配しちゃうなぁと思ったわけよ」
『心配?…黒尾さんが?』
「こんなかわい子ちゃんが、会ったばっかの男にすぐについてっちゃうって、そりゃあ心配でしょうよ」
わたしを喜ばせるような、どこか期待をさせるような言葉達。含みを持たせたようなその言い方は、まるで愉しんでいるかのようだった。
こちらを覗き込むその仕草も、わざとらしく組み直された長い足も、小さく吐き出す熱っぽい息も。
黒尾さんの全てが、計算されたもののようで、それでいて、やけに色っぽかった。
「それとも、俺なら心配ないと思ってる?」
一度伏せられた瞳が、ゆっくりとわたしを捉えて妖しく光った。
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nameless - 1話1話読み進めていく毎に高揚感が募っていくような作品でした!またいつか、続きを楽しみにしております (12月20日 10時) (レス) @page42 id: e6c0ea655a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 水傘るんさん» 水傘るんさん!ありがとうございます!このシリーズに黒尾さんは必須!と思っていました!大人ですよね…!ありがとうございます頑張ります!! (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 菜花さん» 菜花さん、ありがとうございます!彼らの大人時代はどんなのかなぁという妄想から始まった作品ですが、そう言っていただけて嬉しいです🍀💚今後もぜひよろしくお願いいたします! (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
水傘るん(プロフ) - 面白すぎます........えっやばい。黒尾さぁん.....大人の男すぎますって....最高です....!!!無理されない程度に更新頑張ってください!!応援してます!! (2023年3月26日 2時) (レス) @page27 id: e67109cbac (このIDを非表示/違反報告)
菜花 - めっちゃ大人って感じのハイキューの小説が読めるとは…!と感激しています!スッと内容が入りやすくて魅了されるような文章で尊敬します!なんか上からですみません!応援してます! (2023年3月20日 3時) (レス) @page27 id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月20日 20時