10 ページ10
目の前に広がる皿やジョッキを、酔いが回りだした頭で見下ろす。
少し視界が霞む気がするのに、その奥に見えるAはやけにはっきり見えた。
「あ、枝豆俺も食うから残しといて」
『え、もうないけど』
「まじかよ。Aお前食いすぎだろ」
『悪かったわね、仕事終わりはお腹空くの。
もう一つ頼む？』
「いや、どうせなら他の食おーぜ」
いいね、とすぐに頷いてメニューを開くAは、
予想していた通り気が強い女だった。
はじめこそ遠慮してたのか少し大人しかったけれど、次第に口調も雰囲気も変わっていった。
でもそれは決して高飛車な感じじゃなくて、不快でもなくて、むしろ、らしいっつーか。
自己主張がはっきりしてて、媚びない態度。
自分を持ってるような、他人に流されないような、
どこか芯の通った、気の強い女。
『あ、これは？
どうせなら今飲んでる日本酒と…って聞いてる？』
「あ？聞いてるっつの」
『そう？ならいいんだけど』
「それ食べたいんだろ、頼むぞ」
それでいて、やけに凛とした顔してると思いきや、今みたいにやたら無邪気に笑ったりする。
メシとか酒がうまいとか、そういうので、いとも簡単に笑う。
どんどん惹かれてるのは、もう誤魔化しようがなかった。
酒を重ねるごとにタメ口や名前を呼ぶのにも慣れてきて、変な緊張や、微妙な距離感は今はもう感じられない。
でも、それだけで終わるつもりはない。
ただの飲み友達になるつもりなんか、さらさらない。
運ばれたたこわさを嬉しそうにつまむ姿を見ながら、胸の内で決意を固めた。
『そういえば、茂庭さんと高校からの付き合いってすごい長いよね』
「ブフッ…！」
アルコールで鈍りだしていた頭に、その言葉はガツンと響いた。
飲んでいた酒が少し溢れて、慌てて口を押さえる。
飲んでいたのが日本酒でよかった。これがジョッキに入ったビールだったなら、と考えると顔が引きつる。
『何してるの、ちゃんと拭いてよね』
「え、は？いや、何でそれ…」
差し出されたおしぼりを素直に受け取りながら小さく尋ねる。
だらしない姿を見せてしまったことを気にするけれど、淡々としたその表情からは何も読み取れなかった。
『茂庭さんが言ってたの。
高校での大事な部活仲間なんだって』
「…またあの人はしょーもないこと」
思わず悪態をついた俺に、しょうもなくないでしょ、と諭すような声がかかる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 219人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さな(プロフ) - 柴田んぬさん» 柴田んぬさん、ありがとうございます！楽しんでいただけるように頑張ります！ (2023年1月22日 22時) (
レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
柴田んぬ - このお話すごく好きです！応援しています^^ (2023年1月22日 16時) (レス) @page5 id: 8796ade977 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さな | 作成日時：2023年1月20日 18時
